神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

ちょ…今、今なんて?

俺の聞き間違いだったら良かっ、

「ジュリス。私、キルディリア魔王国に行く」

…やっぱり聞き間違いじゃなかった。

「おま…!何言ってるんだ」

色んな意味で。

「お前…キルディリアがどういう国か知ってるのか?何処にあるのか知ってるのか」

「…。…知らない」

ほら、見たことか。

…とはいえ、かく言う俺も、行ったことはないんだが。

でも、知識としてはある程度知っている。

それに…。

「旅行なんて無理だぞ。今、あの国は戦争中なんだから」

「…戦争?何の?」

「だから…アーリヤット皇国と戦ってるんだよ。ほら」

俺は、さっきまで読んでいた報告書を、ベリクリーデに手渡した。

しかし。

「…??字がちっちゃくて読めない」

あぁ、もう。

「それに、紙がしわくちゃ…」

「…それは俺が悪かったけど…」

「なんて書いてあるの?」

「だから、アーリヤット皇国と戦争中だって。今のところ、一進一退の攻防を繰り広げてるそうだ」

果たしてこの先、戦況がどうなるか。

アーリヤット皇国が水際でキルディリア魔王国を食い止めるのか。

それとも、開戦の勢いそのままに、キルディリア魔王国がアーリヤット皇国を押し切るのか…。

その行く先は、誰にも分からない。

いくら「有利な戦争」と思い込んでいても。

蓋を開けてみれば、激しい抵抗に遭って泥沼の戦争が続く…なんてことは、歴史の中で何度も繰り返されてきた。

ましてや、アーリヤット皇国は大国だ。 

かの国の情勢如何では、ルーデュニア聖王国も、対岸の火事ではいられない。

いつ、こちらに飛び火してくるか分からない状態なのだ。

それなのに…絶賛戦時下のキルディリア魔王国に、自ら足を踏み入れようとは。

飛んで火に入る夏の虫、じゃないか。

「とにかく、今キルディリア魔王国に行くのは駄目だ。危険過ぎる」

「…」

「戦争が終わったら。情勢が落ち着いて、平和になったら。その時行けば良いだろ?」

何しに行くのか知らないけど。

今動くのは危険過ぎるし、それにあの国は、超魔導師国家だと聞いている。

迂闊にベリクリーデが足を踏み入れて、万が一のことがあったら…。

…それなのに。

「…ううん。今行く」

「…え…?」

「今行くの。絶対」

「…」

びっくりした。

ベリクリーデは確かに、いつも突拍子のないことばかり言うけど。

基本的には素直で、人の言うことは何でも聞く。

むしろ、人の言うことを何でも真に受け過ぎて困っているくらいだ。

俺が言い聞かせると、大抵のことは「うん、分かったー」とか言って納得する。

でも、ベリクリーデは今、きっぱりと俺の言いつけを断った。

それはまるで、ベリクリーデじゃない、他の誰かに見えた。