「大変だ…!ごめんママ、雪!」
「どうしたのそんな青ざめた顔して。運転に集中してくれるかしらパパ?」
「陣たちに渡すお茶菓子家に忘れてきた…。今近くのケーキ屋さんで買ってくるから寄ってもいいかな…?」
パパがいきなり青ざめた顔をしてそう告げたのは、車に乗ってから少ししてからだった。
確かに今から戻るよりかは買った方が早い。
ちなみに、陣《じん》というのは、パパとママの高校の時の同級生で大切な友人。これから会う未来の旦那様の父親にあたる人。
「ほんとしっかりしてないわねえ~。そういうところ、ずっと前から変わらないんだから。仕方がないから買いに行きましょう?」
パパとママと陣さんは中高がずっと同じで、高校の時に陣さんの後の奥さんになる人が同じ高校に転校してきてずっと4人で仲が良かったらしい。
高校でパパとママは恋人になり、陣さんと奥さんも恋人になり、そしてそのままお互い結婚して子どもを授かった。そしてその子どもの私と月さんが婚約する。
私はパパとママみたいな素敵な夫婦になれるのかな
_______________________
パパとママがケーキ屋さんでお茶菓子を選んでいる間、
私はケーキ屋さんの隣にある、こじんまりとしたお花屋さんで過ごすことにした。
お花屋さんのドアを開けると、「からん」とドアのベルが鳴り、視界に色とりどりのお花が広がり、甘いお花の香りが漂ってくる。
「こんにちは。ゆっくりしていってね。」
奥のカウンターにいる30代ぐらいの男性の店員さんは、どうやら若い男性のお客さんとお話をしていた最中のようで、挨拶をした後、すぐお客さんとの会話に戻った。
私は花がとても好き。
小さい頃の、あのお城の中からいつも眺めていたあの綺麗なお庭。男の子から貰った大切な花束。教えてもらった花の名前。
花を見る度にあの時の記憶を鮮明に思い出すことができるから。あの時の気持ちを思い出す事ができるから。
「ねえ、そこの可愛いお嬢さん。少し力を貸してくれないかい?」
突然、奥のカウンターにいる店員さんから声をかけられた。
私は声をかけられるとは思ってもいなかったため、かなり驚いてしまい、近くの棚の上に陳列されていた植木鉢にぶつかってしまった。
「えっ、わ!!!」
植木鉢が地面に落ちる寸前の所で、店員さんとお話をしていた若い男性のお客さんが、植木鉢を受け止めてくれていた。
「あぶね………」
「あ、あの!ごめんなさい私落としちゃって…!」
「わあごめんねこちらこそ急に話しかけちゃって!大丈夫?怪我は無い?君もキャッチしてくれてありがとね」
ふと、その若い男性のお客さんと目が合った。
私よりも少し年上か同じくらいの、背が高くて端正な顔立ちをしていて、綺麗な二重に切れ長の黒い瞳。
若い男性のお客さんは私の顔を無言でじっと見つめてきた。初対面の人に、しかも顔が整っている人に見つめられるとかなり恥ずかしくなってしまう。
「どうやらそのお客さんがね、女性に花束を渡したいらしいんだけど、どんなのがいいのか分からないんだって。聞きたいからって何もそんなに見つめなくてもさ。僕も花屋の店員ではあるけど、男性だしオッサンだし。実際に可愛いお嬢さんに聞いた方がいいかなって思って声掛けたんだよ。びっくりしたよね。」
「あ、はい…そうです。すみません驚かせて」
若い男性のお客さんは、我に返った表情を見せると、少し頬を赤く染めて、直ぐに顔を背けて植木鉢を元の場所に戻し、奥のカウンターに引っ込んでしまった。
「お花ですか…?素敵ですね、きっと相手の女性の方も喜ばれますよ。どんなお花であれ、その女性を想って選んだお花であれば、きっと気持ちは伝わります。」
私も、花束を大切な人から貰うあの気持ちは、痛いほどよく分かる。すごくすごく嬉しくて、ふわふわするあの気持ち。
この若い男性のお客さんに想われている相手の女性が、ほんの少しだけ羨ましく感じた。
店員さんに真剣に相談して、花束を渡す。きっとすごく相手の女性の事を大切に考えているのだろう。
「その女性を想って選んだお花か…。ありがとうございます。説得力すごくありますね、参考になります」
若い男性のお客さんは、私の話を聞いて納得したらしく、私に微笑んでお礼を伝えてくれた。
二重で少し切れ長の瞳が、くしゃっと崩れるその微笑みが、どこか懐かしく感じた。
突然スマホの通知が鳴った。
ママからお茶菓子を選び終わった事を報告する連絡だった。
「参考になれば幸いです。それじゃあ私はここで失礼します。植木鉢ぶつかってしまってすみませんでした…!」
「全然大丈夫だよ~お客さんにアドバイスもありがとうね!こじんまりとしたお花屋さんだけど、またいつか遊びにおいでね」
_______________________
花屋の店員さんと若い男性のお客さんに別れを告げて
パパとママと合流した。
「雪、見てこれ!すごく美味しそうじゃないか?!」
どうやら満足のいく買い物が出来たようで、すっかりパパの顔色も戻っていた。
ママは、やれやれといった表情で、少し目を細めてパパを愛おしそうに見つめている。
きっとこれが、相手を大切だと思っている表情。
時折、パパがママに、ママがパパに、そしてパパとママが私に、向ける表情。
あの花屋さんで出会った若い男性のお客さんも、その表情をしながら色とりどりのお花を選んでいた。
小さい頃よく遊んでいた、大好きな男の子も、私によくその表情を向けてくれていた。きっと、花束をお庭で作っている時も同じ表情をしてくれていたのだろう。
恐らくもう二度と会える事はきっと無い、もう二度とあのお城で目覚める事が無い現実に、少し胸が苦しくなった。
「どうしたのそんな青ざめた顔して。運転に集中してくれるかしらパパ?」
「陣たちに渡すお茶菓子家に忘れてきた…。今近くのケーキ屋さんで買ってくるから寄ってもいいかな…?」
パパがいきなり青ざめた顔をしてそう告げたのは、車に乗ってから少ししてからだった。
確かに今から戻るよりかは買った方が早い。
ちなみに、陣《じん》というのは、パパとママの高校の時の同級生で大切な友人。これから会う未来の旦那様の父親にあたる人。
「ほんとしっかりしてないわねえ~。そういうところ、ずっと前から変わらないんだから。仕方がないから買いに行きましょう?」
パパとママと陣さんは中高がずっと同じで、高校の時に陣さんの後の奥さんになる人が同じ高校に転校してきてずっと4人で仲が良かったらしい。
高校でパパとママは恋人になり、陣さんと奥さんも恋人になり、そしてそのままお互い結婚して子どもを授かった。そしてその子どもの私と月さんが婚約する。
私はパパとママみたいな素敵な夫婦になれるのかな
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パパとママがケーキ屋さんでお茶菓子を選んでいる間、
私はケーキ屋さんの隣にある、こじんまりとしたお花屋さんで過ごすことにした。
お花屋さんのドアを開けると、「からん」とドアのベルが鳴り、視界に色とりどりのお花が広がり、甘いお花の香りが漂ってくる。
「こんにちは。ゆっくりしていってね。」
奥のカウンターにいる30代ぐらいの男性の店員さんは、どうやら若い男性のお客さんとお話をしていた最中のようで、挨拶をした後、すぐお客さんとの会話に戻った。
私は花がとても好き。
小さい頃の、あのお城の中からいつも眺めていたあの綺麗なお庭。男の子から貰った大切な花束。教えてもらった花の名前。
花を見る度にあの時の記憶を鮮明に思い出すことができるから。あの時の気持ちを思い出す事ができるから。
「ねえ、そこの可愛いお嬢さん。少し力を貸してくれないかい?」
突然、奥のカウンターにいる店員さんから声をかけられた。
私は声をかけられるとは思ってもいなかったため、かなり驚いてしまい、近くの棚の上に陳列されていた植木鉢にぶつかってしまった。
「えっ、わ!!!」
植木鉢が地面に落ちる寸前の所で、店員さんとお話をしていた若い男性のお客さんが、植木鉢を受け止めてくれていた。
「あぶね………」
「あ、あの!ごめんなさい私落としちゃって…!」
「わあごめんねこちらこそ急に話しかけちゃって!大丈夫?怪我は無い?君もキャッチしてくれてありがとね」
ふと、その若い男性のお客さんと目が合った。
私よりも少し年上か同じくらいの、背が高くて端正な顔立ちをしていて、綺麗な二重に切れ長の黒い瞳。
若い男性のお客さんは私の顔を無言でじっと見つめてきた。初対面の人に、しかも顔が整っている人に見つめられるとかなり恥ずかしくなってしまう。
「どうやらそのお客さんがね、女性に花束を渡したいらしいんだけど、どんなのがいいのか分からないんだって。聞きたいからって何もそんなに見つめなくてもさ。僕も花屋の店員ではあるけど、男性だしオッサンだし。実際に可愛いお嬢さんに聞いた方がいいかなって思って声掛けたんだよ。びっくりしたよね。」
「あ、はい…そうです。すみません驚かせて」
若い男性のお客さんは、我に返った表情を見せると、少し頬を赤く染めて、直ぐに顔を背けて植木鉢を元の場所に戻し、奥のカウンターに引っ込んでしまった。
「お花ですか…?素敵ですね、きっと相手の女性の方も喜ばれますよ。どんなお花であれ、その女性を想って選んだお花であれば、きっと気持ちは伝わります。」
私も、花束を大切な人から貰うあの気持ちは、痛いほどよく分かる。すごくすごく嬉しくて、ふわふわするあの気持ち。
この若い男性のお客さんに想われている相手の女性が、ほんの少しだけ羨ましく感じた。
店員さんに真剣に相談して、花束を渡す。きっとすごく相手の女性の事を大切に考えているのだろう。
「その女性を想って選んだお花か…。ありがとうございます。説得力すごくありますね、参考になります」
若い男性のお客さんは、私の話を聞いて納得したらしく、私に微笑んでお礼を伝えてくれた。
二重で少し切れ長の瞳が、くしゃっと崩れるその微笑みが、どこか懐かしく感じた。
突然スマホの通知が鳴った。
ママからお茶菓子を選び終わった事を報告する連絡だった。
「参考になれば幸いです。それじゃあ私はここで失礼します。植木鉢ぶつかってしまってすみませんでした…!」
「全然大丈夫だよ~お客さんにアドバイスもありがとうね!こじんまりとしたお花屋さんだけど、またいつか遊びにおいでね」
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花屋の店員さんと若い男性のお客さんに別れを告げて
パパとママと合流した。
「雪、見てこれ!すごく美味しそうじゃないか?!」
どうやら満足のいく買い物が出来たようで、すっかりパパの顔色も戻っていた。
ママは、やれやれといった表情で、少し目を細めてパパを愛おしそうに見つめている。
きっとこれが、相手を大切だと思っている表情。
時折、パパがママに、ママがパパに、そしてパパとママが私に、向ける表情。
あの花屋さんで出会った若い男性のお客さんも、その表情をしながら色とりどりのお花を選んでいた。
小さい頃よく遊んでいた、大好きな男の子も、私によくその表情を向けてくれていた。きっと、花束をお庭で作っている時も同じ表情をしてくれていたのだろう。
恐らくもう二度と会える事はきっと無い、もう二度とあのお城で目覚める事が無い現実に、少し胸が苦しくなった。
