「それで板橋は?」
「分からん。途中でどっか行っちゃった。単独行動は危険だって言ったのにな」
「いや俺のこと置いてったじゃん。俺めちゃくちゃ単独だったじゃん」
「もしかしたら別の階行っちゃったのかな。電話してみるか」
「えっ、俺のことはスルー?」
電話はすぐに繋がった。戸田の予想通り、下の階に移動して雑貨屋を見ていたらしい。板橋のもとに向かうと、彼は二つのポーチを手に持って見比べていた。
「なぁ、この二つだったらどっちがいいと思う?」
到着した2人に対して、真っ先に質問をぶつける。戸田と赤羽は顔を見合せて、自分の思った方を指さした。残念ながら結論は出ない。
「くそっ、決まんねぇ」
「彼女が好きそうな方でいいじゃん。好みくらい知ってるだろ」
「フリフリ系よりは大人っぽいのが好きだと思う。……けど、裏をかいてカワイイ系がいいかもしれないし」
「なんで裏をかくんだよ」
苦悩の様子が顔から見て取れる。テストのときは適当な選択肢を選ぶし、深く考えずに引っ掛け問題に引っかかるというのに、彼女にあげる物となるとそうはいかなかった。
「おっ、じゃあこれは?」
そう言って赤羽が手に取ったのは、シンプルな黒いポーチだ。ワンポイントとして白いリボンがついており、いわゆる大人カワイイ感じである。それを見た板橋は、一気に表情を明るくした。
「そう! こういうのがいいと思ってたんだよ! 赤羽ナイス!」
「まじ? 俺ナイスプレーじゃん。それにすんの?」
「うん、これ買ってくる! ちょい待ってて!」
さっきまで悩んでいたのが嘘だったかのように、即決してレジに向かう。あまりの速さに戸田たちは少し笑ってしまった。とにもかくにも、これで全員が本日の目的を達成することができた。
3人が可愛らしい袋を持って駅ビルを出たときには、街は完全に夜になっていた。冷えた空気と薄暗い景色の中、ホワ会の面々は顔を見合わせる。そこには、買えてよかったという安堵の念と、喜んでもらえるだろうかという不安の念が浮かんでいた。
「とりあえず無事に買えたな」
「ああ。だが、これはいわば前哨戦。本番で結果を出さないと」
「そうだな。よし、明日の成功を祈って円陣を組もう」
3人は円形になって肩を組んだ。夜とはいえ、駅前なので人が多い。通り過ぎる人々が、部活の集まりだろうかと彼らをチラチラと見ている。残念ながら、ホワイトデーがんばろうの会、略してホワ会である。
「ホワ会、がんばるぞー!」
「「おー!」」
妙な高揚感に浮かされてこんなことをしているが、おそらく3人とも後々冷静になって恥ずかしくなる。とはいえ、これで士気が上がったことには違いない。帰りの方向が別々な3人は、真っ直ぐな目をして各々の帰路に着いた。
一方、同日夕方、駅前のカフェにて。
「バレ会お疲れさまでした!」
「「おつかれー!」」
女子高校生3人が、声を掛けあって小さく拍手をしていた。バレンタインがんばろうの会、略してバレ会の面々である。
「こうして正式に集まるのが遅くなってしまいましたが、バレンタインにはそれぞれが目標を果たせたということで」
「うん。バレンタインがんばろうの会、改め、バレンタインがんばったの会、略してバレ会になったね」
「ホワイトデーもう明日だよ! 何くれるかなぁ。てか、もしかして、向こうもホワイトデーがんばろうの会とかやってたりして!」
「まっさかー!」
「ファミレスで作戦会議開いてたりしてね」
そんな軽口を叩きながらクスクスと笑う。コーヒーとケーキを囲んでの集まりは、ホワ会と比べて華やかだ。そんな彼女たちが、それぞれポーチとマカロンとクッキーをもらうのは、その次の日のお話である。
Fin.
「分からん。途中でどっか行っちゃった。単独行動は危険だって言ったのにな」
「いや俺のこと置いてったじゃん。俺めちゃくちゃ単独だったじゃん」
「もしかしたら別の階行っちゃったのかな。電話してみるか」
「えっ、俺のことはスルー?」
電話はすぐに繋がった。戸田の予想通り、下の階に移動して雑貨屋を見ていたらしい。板橋のもとに向かうと、彼は二つのポーチを手に持って見比べていた。
「なぁ、この二つだったらどっちがいいと思う?」
到着した2人に対して、真っ先に質問をぶつける。戸田と赤羽は顔を見合せて、自分の思った方を指さした。残念ながら結論は出ない。
「くそっ、決まんねぇ」
「彼女が好きそうな方でいいじゃん。好みくらい知ってるだろ」
「フリフリ系よりは大人っぽいのが好きだと思う。……けど、裏をかいてカワイイ系がいいかもしれないし」
「なんで裏をかくんだよ」
苦悩の様子が顔から見て取れる。テストのときは適当な選択肢を選ぶし、深く考えずに引っ掛け問題に引っかかるというのに、彼女にあげる物となるとそうはいかなかった。
「おっ、じゃあこれは?」
そう言って赤羽が手に取ったのは、シンプルな黒いポーチだ。ワンポイントとして白いリボンがついており、いわゆる大人カワイイ感じである。それを見た板橋は、一気に表情を明るくした。
「そう! こういうのがいいと思ってたんだよ! 赤羽ナイス!」
「まじ? 俺ナイスプレーじゃん。それにすんの?」
「うん、これ買ってくる! ちょい待ってて!」
さっきまで悩んでいたのが嘘だったかのように、即決してレジに向かう。あまりの速さに戸田たちは少し笑ってしまった。とにもかくにも、これで全員が本日の目的を達成することができた。
3人が可愛らしい袋を持って駅ビルを出たときには、街は完全に夜になっていた。冷えた空気と薄暗い景色の中、ホワ会の面々は顔を見合わせる。そこには、買えてよかったという安堵の念と、喜んでもらえるだろうかという不安の念が浮かんでいた。
「とりあえず無事に買えたな」
「ああ。だが、これはいわば前哨戦。本番で結果を出さないと」
「そうだな。よし、明日の成功を祈って円陣を組もう」
3人は円形になって肩を組んだ。夜とはいえ、駅前なので人が多い。通り過ぎる人々が、部活の集まりだろうかと彼らをチラチラと見ている。残念ながら、ホワイトデーがんばろうの会、略してホワ会である。
「ホワ会、がんばるぞー!」
「「おー!」」
妙な高揚感に浮かされてこんなことをしているが、おそらく3人とも後々冷静になって恥ずかしくなる。とはいえ、これで士気が上がったことには違いない。帰りの方向が別々な3人は、真っ直ぐな目をして各々の帰路に着いた。
一方、同日夕方、駅前のカフェにて。
「バレ会お疲れさまでした!」
「「おつかれー!」」
女子高校生3人が、声を掛けあって小さく拍手をしていた。バレンタインがんばろうの会、略してバレ会の面々である。
「こうして正式に集まるのが遅くなってしまいましたが、バレンタインにはそれぞれが目標を果たせたということで」
「うん。バレンタインがんばろうの会、改め、バレンタインがんばったの会、略してバレ会になったね」
「ホワイトデーもう明日だよ! 何くれるかなぁ。てか、もしかして、向こうもホワイトデーがんばろうの会とかやってたりして!」
「まっさかー!」
「ファミレスで作戦会議開いてたりしてね」
そんな軽口を叩きながらクスクスと笑う。コーヒーとケーキを囲んでの集まりは、ホワ会と比べて華やかだ。そんな彼女たちが、それぞれポーチとマカロンとクッキーをもらうのは、その次の日のお話である。
Fin.



