「よー、何してんの?」
 
ポテトがすべて消え、全員が2杯目の飲み物を取ってきたくらいのタイミングで、3人は通路から声を掛けられた。同じ制服を着ているはずなのに何故か妙にオシャレに見える、クラスのモテ男子の登場である。当たり前のように爽やかに話しかけてきた彼は、クラスメイトに恋愛指南するくらいのプロフェッショナルだ。本来であれば最初に教えを乞うべき相手だったが、イケメンオーラにビビって話しかけることができなかった。彼をホワ会の顧問役にしていたら、前日にファミレスで作戦会議なんてことにはなっていなかっただろう。
 
「ホワ会の作戦会議」
「え? ほわ?」
「ホワイトデーのお返しどうしようかなって話してたの」
「ああ、明日だもんな」
 
戸田の返答を聞いて首を傾げたモテ男子に、板橋がすかさずフォローを入れる。それを聞いて彼は納得したようだった。
 
「なんか普通にお菓子でいいんじゃないの?」
「お菓子にもさ、いろいろ意味があるって聞いたから、今それを確認中」
「意味? あの、あれか、マシュマロはだめとかのやつ」

さすがモテる男は違う。マシュマロという危険なお菓子のことがすぐに口から出てきた。彼にはマシュマロを恐れている様子はない。これがホワ会との差だ。
 
「そう、それ。変な意味のやつ渡しちゃったら最悪だから」
「いや別にそんなの気にせずに、好きなもん渡したらいいじゃん。相手がマシュマロ好きなら、マシュマロ渡せばいいし」
「え、でも悪い意味で捉えられちゃったら」
「そういうの気にして、相手が好きでもないお菓子渡しちゃったら、そっちの方がまずくね?」
「たしかに……!」
 
真っ当な意見に、3人揃ってハッとして顔を見合せた。好きなものをあげる、という当たり前の大前提が頭から抜けつつあったのだ。
 
「ち、ちなみに先生は彼女に何をお返しするんですか?」
「先生?」
「たしかに。兄貴が渡すものも聞いておきたいな」
「兄貴?」
 
急に「先生」「兄貴」などと呼び始めたホワ会に、モテ男子は困惑の色を示す。自分たちより圧倒的にレベルが上であるため、3人は自然と彼を崇めるようになっていた。
 
「もしかして俺のこと先生とか兄貴とか言ってる? 別にそんな大した人間じゃないんだけど」
「いや、なんかもう格が違うんで」
「なんのだよ。てか、せめて先生か兄貴か統一しろよ」
「じゃあ師匠で!」
「増やすな増やすな」
 
こういう変なノリに付き合ってくれるところが、彼のモテる理由の一つなのだろう。ドリンクバーで注いできたであろうメロンソーダは、持っている手の温かさで少しぬるくなっている。ちなみにホワ会の3人がこうしてふざけているのは、全然何も決まっていないという現実からの逃避にほかならない。