「俺一応調べておいたんだ。なんか渡したらダメなものがあるらしいから」
「有能」
「さすが」
戸田が手を挙げて発言すると、他2人は感心したように拍手をした。褒められた戸田は満更でもない顔をする。
「例えば、クッキーは友達でいようって意味になっちゃうから、本命にあげるのはやめた方がいいらしい。それとマシュマロは、」
「待て待て!」
「ん?」
「俺去年クッキーあげちゃったんだけど」
焦って口を挟んだのは、片思いボーイ赤羽だ。彼の発言によって、コーラの炭酸の音が聞こえるくらいの沈黙が流れる。
「……終わったな」
「じゃあな赤羽」
赤羽、ホワ会脱退の危機である。板橋は残念そうな顔をしながら、手元の紙に「クッキーはだめ」と書いた。ご丁寧にクッキーの絵も添えている。
「ちょっ、今年こそはいい感じのものあげるから! ハブんないで!」
片思いボーイの必死な叫びが小さく響く。残りの2人は仕方ないなという表情をして、ポテトをつまんだ。
「あー、それで続きね。マシュマロは絶対だめ。あなたのことが嫌いですって意味らしいから」
「え、マシュマロこっわ」
「恐ろしいな、マシュマロ」
マシュマロはもっとだめ、というのをクッキーの下に書く板橋。もちろんマシュマロの絵も隣に鎮座している。マシュマロが怖いというのも変な話である。字面だけ見ると、かの有名な落語っぽい。
「逆に何ならいいんだよ」
「マカロンとか金平糖とかは好意を表せるからいいんだと」
「どっちもあんまり食べないから分かんねー」
「マシュマロと何が違うんだ……」
とりあえずマカロンと金平糖の絵が描き加えられる。だが、マカロンはどう見てもどら焼きにしか見えない。
「馬鹿らしいって思うけどさ、これ知らずに贈っちゃうと、よくないメッセージ伝える可能性あるもんなぁ。赤羽みたいに」
「ああ、そうだよ。赤羽みたいにな」
「くそ、この彼女持ちどもめ! 馬鹿にしやがって」
話しながらどんどんポテトが消えていく。話自体は盛り上がっているが、内容はそんなに詰まっていない。明日がホワイトデーであるという危機感は、ホワ会にはあまりないのだろう。3人とも内心、当日買うのでもギリ間に合うと思っている節がある。



