魔王の手から、ほどよい風量の風が出続けた。気持ちよさそうに目を閉じているイエローの毛が乾いてモフモフになってくる。可愛いくせ毛も綺麗にくるりんとした。
「どうだ?」
魔王はイエローの肩に両手を乗せ、鏡の前まで誘導した。イエローは自分の毛を触る。
「いつもよりもフワフワ、すごくいい!」
結局魔王は男の子チームの毛を全員乾かした。
「俺は魔王に聞きたいことが山ほどある。だが、まずは子供優先だ。浴衣を着せよう」
子らは大人たちに浴衣を着せてもらい、それぞれ鏡を見て「かっこいいな浴衣」「毛がフワフワ~」などと言い、盛り上がっている。戦士ゼロスもその中に紛れていた。
「魔王、俺には何が起きたかさっぱり分からない。どうなってるんだ?」
「我にも分からぬ」
「リ、リュオン様、今のは魔法でございます」
「それは我にも分かっている……」
魔王は再び自分の両手を見つめた。
「魔王は分からない割には、余裕な雰囲気を醸し出しながら子らの毛をフワフワ乾かしていたよな?」
「別に余裕ではない。魔法が出せる予感がして、もしかしたらと思い魔法を使ってみたら使えて、気がつけば夢中になっていた。今使った魔法は、日々育児をしていて、もしも魔法が再び使えるようになったら、こんなふうに使ってみたいと考えていたことだ」
「だから夢中になっていたんだな。魔法の風で子らの毛をフワフワ乾かしたいと考えていたのか」
「……あぁ。ちなみに今の風にはフワフワになる特別なエッセンスも混ぜた」
だからいつもよりもフワフワ感が増しているのか!
「ところで魔王は、いつ身体の中にある魔力を感じた?」
「湯に浸かっている途中から、力が湧いてきたんだ……」
「浴室の中でか?」
「あぁ、詳しくは露天風呂の中に入った時だ」
「どう考えても今のは魔法だよな。魔王の魔力は奪われ、しかも封印されたのではなかったのか?」
「そうだ。たしかに封印され、今まで何度も試してはみたが、一切魔法は使えなかった」
なのに、何故ここに来て、魔王の魔法が突然使えるように?
「もしかして、温泉の効能のひとつか? でもたしか、肩こり、疲労回復、精神安定、美肌……。魔力の回復とは一切書いていなかったような? そもそも魔力封印ってどんな仕組みなんだ?」
俺は分かりやすく説明してくれそうな執事の目を見た。
「簡単に申し上げますと、本来誰もが身体の中に見えない瓶のようなものがあります。その中に魔力が水のように入っているのです。瓶の大きさ、魔力の量、使いこなせるかどうかも様々で。リュオン様は、生まれながら大きな瓶を持っていました。そして血のにじむような努力により、世も恐れる強大な魔法が使えるようになったのです」
魔王の魔法は世界最強と言われるほどに強く、人間の間でも有名な話だった。その強さは努力の集大成だったのだな。影の努力を知り、魔王への好感度は更に上がる。
執事は話を続けた。
「そしてわたくしたちが敗北した時に、リュオン様の瓶の中にあった魔力は吸い取られ、封印……例えるなら分厚く丈夫な蓋を瓶にされたのです」
「蓋をされてしまえばもう魔力が中に入ることはないし、使うこともできない」
「……そうです」
「だけど今、その蓋が外れ、魔力が完全に戻ったと?」
「その可能性もゼロではありません」
「いや……我の魔力は完全に戻ったわけではない。少しだけだ」
原因はさっぱり分からなかった。唯一はっきりしているのは、このまま魔王の魔力が完全に復活してほしいと願う自分の気持ちだけ。だが、俺がその気持ちを表に出してしまえば反乱分子とみなされ、追放される可能性も出てくるだろう。
「そろそろ部屋に戻るか? 子供が眠たいと言っている」
「分かった。部屋に戻るぞ!」
戦士ゼロスがスカイとイエローを両脇に抱え、レッドをおぶっていた。
「ゼロスは、三人も抱えてすごいな」
「三人くらい、余裕だ! ここにいる子供全員担げるぜ! 担いでやろうか?」
ゼロスはブラックに問う。だが「いや、いい」とブラックは首を振って冷静に断っていた。
力持ちのチートもなかなか良いな。もしも俺も力持ちのチートを手に入れていたら、ゼロスみたいに子らを抱えられる。そして具合が悪くなった魔王も軽々と姫抱っこできたりするのか――
人は自分にないものを羨ましいと思ってしまう。だが俺は現在、子育てチートのお陰で今があるのだから、このチートを手に入れることができて良かったと心から満足していた。
「どうだ?」
魔王はイエローの肩に両手を乗せ、鏡の前まで誘導した。イエローは自分の毛を触る。
「いつもよりもフワフワ、すごくいい!」
結局魔王は男の子チームの毛を全員乾かした。
「俺は魔王に聞きたいことが山ほどある。だが、まずは子供優先だ。浴衣を着せよう」
子らは大人たちに浴衣を着せてもらい、それぞれ鏡を見て「かっこいいな浴衣」「毛がフワフワ~」などと言い、盛り上がっている。戦士ゼロスもその中に紛れていた。
「魔王、俺には何が起きたかさっぱり分からない。どうなってるんだ?」
「我にも分からぬ」
「リ、リュオン様、今のは魔法でございます」
「それは我にも分かっている……」
魔王は再び自分の両手を見つめた。
「魔王は分からない割には、余裕な雰囲気を醸し出しながら子らの毛をフワフワ乾かしていたよな?」
「別に余裕ではない。魔法が出せる予感がして、もしかしたらと思い魔法を使ってみたら使えて、気がつけば夢中になっていた。今使った魔法は、日々育児をしていて、もしも魔法が再び使えるようになったら、こんなふうに使ってみたいと考えていたことだ」
「だから夢中になっていたんだな。魔法の風で子らの毛をフワフワ乾かしたいと考えていたのか」
「……あぁ。ちなみに今の風にはフワフワになる特別なエッセンスも混ぜた」
だからいつもよりもフワフワ感が増しているのか!
「ところで魔王は、いつ身体の中にある魔力を感じた?」
「湯に浸かっている途中から、力が湧いてきたんだ……」
「浴室の中でか?」
「あぁ、詳しくは露天風呂の中に入った時だ」
「どう考えても今のは魔法だよな。魔王の魔力は奪われ、しかも封印されたのではなかったのか?」
「そうだ。たしかに封印され、今まで何度も試してはみたが、一切魔法は使えなかった」
なのに、何故ここに来て、魔王の魔法が突然使えるように?
「もしかして、温泉の効能のひとつか? でもたしか、肩こり、疲労回復、精神安定、美肌……。魔力の回復とは一切書いていなかったような? そもそも魔力封印ってどんな仕組みなんだ?」
俺は分かりやすく説明してくれそうな執事の目を見た。
「簡単に申し上げますと、本来誰もが身体の中に見えない瓶のようなものがあります。その中に魔力が水のように入っているのです。瓶の大きさ、魔力の量、使いこなせるかどうかも様々で。リュオン様は、生まれながら大きな瓶を持っていました。そして血のにじむような努力により、世も恐れる強大な魔法が使えるようになったのです」
魔王の魔法は世界最強と言われるほどに強く、人間の間でも有名な話だった。その強さは努力の集大成だったのだな。影の努力を知り、魔王への好感度は更に上がる。
執事は話を続けた。
「そしてわたくしたちが敗北した時に、リュオン様の瓶の中にあった魔力は吸い取られ、封印……例えるなら分厚く丈夫な蓋を瓶にされたのです」
「蓋をされてしまえばもう魔力が中に入ることはないし、使うこともできない」
「……そうです」
「だけど今、その蓋が外れ、魔力が完全に戻ったと?」
「その可能性もゼロではありません」
「いや……我の魔力は完全に戻ったわけではない。少しだけだ」
原因はさっぱり分からなかった。唯一はっきりしているのは、このまま魔王の魔力が完全に復活してほしいと願う自分の気持ちだけ。だが、俺がその気持ちを表に出してしまえば反乱分子とみなされ、追放される可能性も出てくるだろう。
「そろそろ部屋に戻るか? 子供が眠たいと言っている」
「分かった。部屋に戻るぞ!」
戦士ゼロスがスカイとイエローを両脇に抱え、レッドをおぶっていた。
「ゼロスは、三人も抱えてすごいな」
「三人くらい、余裕だ! ここにいる子供全員担げるぜ! 担いでやろうか?」
ゼロスはブラックに問う。だが「いや、いい」とブラックは首を振って冷静に断っていた。
力持ちのチートもなかなか良いな。もしも俺も力持ちのチートを手に入れていたら、ゼロスみたいに子らを抱えられる。そして具合が悪くなった魔王も軽々と姫抱っこできたりするのか――
人は自分にないものを羨ましいと思ってしまう。だが俺は現在、子育てチートのお陰で今があるのだから、このチートを手に入れることができて良かったと心から満足していた。



