通りすがりに虹色のわたあめが売っていたから、赤ん坊のホワイトとギルバードを除く分を購入した。そして大きな噴水前にある芝生に執事が敷物を準備すると、座ってそれを食べる。そのわたあめは、大人の俺の顔の大きさよりも大きい。小さい子らは頬にわたあめをつけながら必死に食べていた。

「みんな、静かだな……」

 少し遠くで走り回っている見知らぬ幼子らの声と、鳥のさえずりしか聞こえない。 一瞬で食べ終えた俺は、苦戦しながら食べている子のわたあめを小さくちぎって食べさせたりしながら、ずっと眺めていた。

 平和を感じながら――。

「わたあめ、美味しかったか?っていうか食べたの初めてか?」
「うん、初めて食べた!」
「美味しかった!」

 今食べたわたあめのような虹色の笑顔を見せながら子らは次々に感想を述べていく。俺は頷きながら温かい気持ちになった。食べさせることができて良かったな――。

「ところで、壁、補修しても不自然な部分が残りそうだけど、どうしようか?」
「みんなで壁に絵を描きたい!」
 
 意見を言ったのは、普段おとなしい中等部のバイオレットだった。

「じゃあ風が中に入ってこないように壁を補修してから、大きな紙をそこに貼ろうか? そしてそこに全員で好きな絵を描こう」
「良いですね。それでは大きな紙を買い、あと絵の具も少なくなっている色を買い足して……大きな筆も必要ですね。あっ、リュオン様は壁に絵を描くことについては、どう思われますか?」
「……うん、良いと思う」

 ということで意見は纏まり、文房具屋で必要な材料を買うと魔王城に戻った。



 魔王城の中に入るとすぐに白いローブのフードを脱ぎ、ハーフマスクをため息つきながら外した魔王。そのため息はまるで、息苦しさを解放したようだ。

「こっちの魔王の方がイケメンで好き」
「私も! もう変身しないで~」

 変装を解いた魔王を眺めながら子らが次々にそう言った。

「……そうか。もうやめようかな」

 魔王はフッと小さな声をだして微笑んだ。魔王の呟きを聞くと、ずっと言いたくて、でも言えなかった言葉が溢れてきた。

「変装なんて、やめたらいい! 最初は周りの視線が気になりすぎると思うけど、すぐに慣れる! 思っているよりも周りは自分を見ていない。周りの目なんて気にしすぎるな!」

 なんて言い切ってしまったけれど、実際に俺は世間から隠れて生きたことはないから分からない。それに魔王がすぐに周りから浴びる視線に慣れるとも限らないし、正体がバレた状態で街中を歩くと傷つけられることを誰かに言われるかもしれない。余計な発言をしてしまったなと頭の中でグルグル考えを巡らせている時だった。魔王の口が動いた。

何を言ったのかが分からなくて俺は「今、何か言ったか?」と問う。すると魔王は俺から目を逸らしながら「ありがとう」とたしかに言った。しかも僅かに微笑みながら。

――俺に向かって、微笑んだのか?

予想外の言葉と微笑みに対し俺は「お、おぉ……」と小刻みに頷きながら不自然な動きをしてしまった。魔王の微笑みが、こびりつくようにずっと頭の中からしばらく消えなかった。