部屋を出ると声は消え、しんと静まり返っていた。どこで子が叫んだのか、見当もつかない。
「大丈夫か?」と大きめな声で言っても、何も返事はない。
――もしかして、あの部屋か?
ただの直感だが、奥にある、魔王を倒した部屋に何かありそうな気がしてならなかった。警戒をしながら近づいていく。廊下を進んでいくと「勇者?」と小さな声がした。振り向くと通り過ぎようとした部屋のドアが少し開いていて、隙間から幼児のスカイが顔を出していた。
「今叫んだのは、スカイか?」
「うん、そう……あのね、あそこに幽霊がいたの……」
「幽霊?」
「一瞬だけだったけど、本当にみえたんだ……」
スカイが指さすのは、例の魔王を倒した部屋だ。やはりあの部屋に何かが? ふたりはその部屋に近づく。
「スカイは、ここで待ってろ」
「いや、勇者と離れたくない……」
今にも泣きそうな表情をしているスカイを抱き上げた。「中に入るけど、大丈夫か?」と問うと、スカイは「うん」と頷き、俺に強くしがみついた。
俺は、静かにドアを、開けた。
漆黒のカーテンが全ての窓を覆い、部屋は真っ暗だ。明かりはつけなかった。背後から狙われないよう、壁に背中を押しつける。暗闇に目が慣れるまで、じっと動かずにいた。だんだん広い部屋の輪郭がうっすら見えてきた。
何もない部屋を見渡し、ふと窓の方向を向く。俺が倒したあの日の魔王が、薄暗さに紛れて窓の前で浮かび上がった気がした。対決前なのに意気込む様子がなく、一瞬諦めたような表情も見せてきた魔王が。なぜあんな顔をしていたのか? あの時は気に留めなかったが、今はこうして気になっている。
魔王のことを考えていると、突然、部屋の隅からトンと大きな音が響いた。
頭の中にある空想の魔王の姿が、ふっと消えた。
気配を消したまま壁をつたって、部屋の隅へ近づく。すると突然、幼き子が通れるくらいの小さなドアが現れた。
――なんだ、これは?
青白い光が揺らめく小さなドアは、ひとめで魔法がかかっているのだと分かる。警戒心を更に強めながら眺めていると、再び物音がした。
どうやら物音は、ドアの向こうからしているらしい。小さなドアだから、ドアの向こうに誰かがいるとしたら、子供か?
耳をドアに近づけたが、何も聞こえない。冷たい静寂が漂っているが、嫌な気配はしなかった。
意を決して「誰か、いるのか?」と声をかけてみた。
少し経つと、中からコトンと音がした。そして「誰? 魔王パパなの?」と震える声が。俺は息を飲んだ。
――魔王が、パパ? この中に魔王の子がいるのか……?
「違う……俺は魔王じゃない」と返事をする。すると突然、青白い光が弾けるように揺らめき、ドアが消えた。目の前に闇が広がった瞬間、冷たい風が頬をかすめた気がした。
「大丈夫か?」と大きめな声で言っても、何も返事はない。
――もしかして、あの部屋か?
ただの直感だが、奥にある、魔王を倒した部屋に何かありそうな気がしてならなかった。警戒をしながら近づいていく。廊下を進んでいくと「勇者?」と小さな声がした。振り向くと通り過ぎようとした部屋のドアが少し開いていて、隙間から幼児のスカイが顔を出していた。
「今叫んだのは、スカイか?」
「うん、そう……あのね、あそこに幽霊がいたの……」
「幽霊?」
「一瞬だけだったけど、本当にみえたんだ……」
スカイが指さすのは、例の魔王を倒した部屋だ。やはりあの部屋に何かが? ふたりはその部屋に近づく。
「スカイは、ここで待ってろ」
「いや、勇者と離れたくない……」
今にも泣きそうな表情をしているスカイを抱き上げた。「中に入るけど、大丈夫か?」と問うと、スカイは「うん」と頷き、俺に強くしがみついた。
俺は、静かにドアを、開けた。
漆黒のカーテンが全ての窓を覆い、部屋は真っ暗だ。明かりはつけなかった。背後から狙われないよう、壁に背中を押しつける。暗闇に目が慣れるまで、じっと動かずにいた。だんだん広い部屋の輪郭がうっすら見えてきた。
何もない部屋を見渡し、ふと窓の方向を向く。俺が倒したあの日の魔王が、薄暗さに紛れて窓の前で浮かび上がった気がした。対決前なのに意気込む様子がなく、一瞬諦めたような表情も見せてきた魔王が。なぜあんな顔をしていたのか? あの時は気に留めなかったが、今はこうして気になっている。
魔王のことを考えていると、突然、部屋の隅からトンと大きな音が響いた。
頭の中にある空想の魔王の姿が、ふっと消えた。
気配を消したまま壁をつたって、部屋の隅へ近づく。すると突然、幼き子が通れるくらいの小さなドアが現れた。
――なんだ、これは?
青白い光が揺らめく小さなドアは、ひとめで魔法がかかっているのだと分かる。警戒心を更に強めながら眺めていると、再び物音がした。
どうやら物音は、ドアの向こうからしているらしい。小さなドアだから、ドアの向こうに誰かがいるとしたら、子供か?
耳をドアに近づけたが、何も聞こえない。冷たい静寂が漂っているが、嫌な気配はしなかった。
意を決して「誰か、いるのか?」と声をかけてみた。
少し経つと、中からコトンと音がした。そして「誰? 魔王パパなの?」と震える声が。俺は息を飲んだ。
――魔王が、パパ? この中に魔王の子がいるのか……?
「違う……俺は魔王じゃない」と返事をする。すると突然、青白い光が弾けるように揺らめき、ドアが消えた。目の前に闇が広がった瞬間、冷たい風が頬をかすめた気がした。



