最近、ゆうくんがおかしい。

いや、分かっている。恋愛面が発達したわけではなく、全てにおいて、緩くなっている気がする。

今までで、ゆうくんは、わたしと謎に一緒に寝ることだって、ココアを淹れることだって、絶対しなかった。

なのに、なぜか最近よく目が合う気がするし、纏う雰囲気がへにょっとしている気がする。
言い過ぎかもしれないけど。
ゆうくんちどうせ夜訪ねる予定だし、その時探るか。

「夜ご飯作りに来たよ!やっほー」

珍しく、キッチンに立っているゆうくん。
パスタを茹でているみたいだ。

かっこいい。
「お」
ちらり、とこちらを見てすぐにナベに視線を戻した。
「ゆうくん。それ、もしかして2人前?うーん、いや、実質一人前か」
「食べないのか」
「へ?いいの?食べるよぉ〜。ゆうくんありがとう。ラッキー」
「ミートソース」
袋を顎で示す。
「あー、これ美味しいよねえ」
火を止めて、お湯を切るゆうくん手際がいい。
「適当に座っとけ」
「あ、うん」
ゆうくんが、わたしのための会話をしてくれることが嬉しくて頷きながら笑いながら答えてしまう。

とりあえず、洗濯物を畳み、クローゼットにしまったところ、そうだ、なんでこんな機嫌がいいんだろう、と思う。

何か、あったのかなあ


「お、これ、持っていって」
「はーい」
できためちゃくちゃ美味しそうなミートソースパスタを受け取り、フォークとかスプーンとかも持っていく。

「…彼女、できた?」
食器棚から、振り向きざまに背中を向くゆうくんに呟く。
こちらを振り向き、真顔になった。
「…お前に?」
「はあ?」
「違うか。え、俺に?」
「…そうそう。最近機嫌いいように見える気がするんだもん」
食事の準備の最中、突然聞いたわたしに機嫌は悪くしていないようで安心する。

あまりにも変な質問だから、慌てているのか、彼女が本当にできて、しらばっくれてるのか。

「…え?」
ゆうくんのぶんのパスタも運び、2人の水も持っていく。
「あのね。わたしはゆうくんに大切な人ができても、なんにも知らんぷりしてくっつく度胸は持ってないし。できたら普通に教えてくれたら、控えるよ。これまでみたいなことは」

「……離れる。ふうん。やっぱ、いる、普通に」
「…じゃあ帰る。ただしパスタは食べる」

恐らく適当な回答だけど、ゆうくんはやっぱり、本音は何を思ってたのか知りたくて、わたしが言ったことなので、従わないわけない。
でもパスタ欲しい。ゆうくんお手製ですし。

ああ、また、自分のことばっかり考えて。
多分ゆうくんは、最初1人で2人分のパスタを食べようとしてた。
だから、わたしがここで大人しく帰宅しても大丈夫。
食材は予定通りの胃の中に入る。なのにわたしは。
「ごめん。わたし、帰るね今」
ちょっと自分が嫌すぎる。
なんか、例えば最悪だけど、倦怠期の彼氏に彼女が無理矢理愛を確かめて、すげなく振られる、そういうだるいことをした。
最悪だ。
「俺少食だが?パスタはお前のものだが」

どういうこと?
まるで、ゆうくんが少食で、わたしが一緒に食べても問題ないって聞こえたよ?
いやいや。
もしかして、んん?
「わたし、ここで食べたいって、大丈夫?」

「は?確かに大切な人は、いる。でもそれとこれとは関係ない」

いいの?パスタ食べたい。ではなく。
「あなたがここで言い切って、彼女と鉢合わせたりしたら気まずいわ!」
そう、よく言ったわたし!

「は?意味わかんない。とりあえず食べろ」

「…いいの?食べるからね!最後まで残さず、皿洗いまでしてって、いいわけ!?」

「…なぜ?」

「ですよね!わたしは、とりあえず、ご相伴に預かりまして、その後即、帰宅します!…でも、もう連絡もしません、突撃しません、必要最低限の接触しか、しません!で大丈夫?」

いろいろやりすぎていた、わたし。
むしろほぼ毎日の怒涛のわたしの通いの間を縫って、家に呼ばずして彼女になったどちら様かすごいな。
…いたらな。

「おい、ちょっと待て。なぜ、そうなる?」
「…わかってるよ、わたし、結構やばい愛を持ちすぎた奴って知ってる。だから、もう、全てを諦めるよ」
「…そうか。…いない。…大切な人は。また何か間違えた」

キッチンとリビングの間で直立不動になる、二転三転したことを言う、ゆうくん。
「ちょっとよく理解できないようで…?」
「いや、悪かった。俺が悪かった。冷める前に食おう」

「ーうん!!」
???
わたし、ヒステリックになっただけでは?
ゆうくんは付き合いきれずに混乱しただけでは。
つまり、彼女なんて存在、しない、可能性大。

「ごめん。わたしが悪い。全ては…」
「…いやいや」
2人、隣に座って、パスタをすすりながら、謝り倒す変な空気にしてごめん…。
もくもくと食べて、しっかり片付けし、シンクまで洗うわたしに、ゆうくんは何を思うのか。

知りたくない。