まだ誰も知らない恋を始めよう

「ね、ね、フィニアス? こっち見て?
遠い目になって、脳内は冒険の旅に出てるの?
 もしかして、貴方も勇者に憧れてた?
 男の子って、皆そうなの?
 兄なんか、父の愛読書の、最初は仲間なのに最後は裏切る魔道騎士モーリスの名前を付けられて、それこそクソが!って父には冷たいよ」

「あ、その話は俺も読んだ!
 あぁ、君のダニエルは、 そうか、聖剣の勇者ダニエルだ!
 そうか、そうか、絶対に、俺と君のお父上は気が合うと……」

 つい興奮して、聖剣の勇者と言い出した俺を、ダニエルが鬱陶しそうに見たのと同時に。

 背後から
「へー」と言う声が聞こえた……それに続いて。


「へー、あのクソ親父と気が合うってことは、俺とは気が合わない、って事だよな」と物凄く低い声がして。
 いきなり後ろからぐっと伸びてきた手によって、彼女から引き離されて。


「お前、誰、何してんの?
 20時以降に、この家に居座っているなんて、いい根性してるよな?
 エルの手を握ってたな? 覚悟は出来てんだろーな?」

 と、如何にも破落戸風に凄まれて。
 振り返れば、ものすごい目で俺を睨み付ける男が居た。


 モーリス・マッカーシー。
 ダニエルを1人置いて、この家を出た彼女の兄だ。

 何度かうちのホテルで彼を見かけた時は、上司のシーバス氏の後ろに従っていて。
 物腰の柔らかな、おとなしそうな人物に見えていたのに。