まだ誰も知らない恋を始めよう

 そんなわたしが主義を曲げたと思いもしないフィニアス・ペンデルトンは、再び
「本当に? 君には僕が見えているんだね?」なんて、言う。


「……この眼鏡、ちゃんと見えてます」

「……あー、視力の話じゃなくて」

 彼はわたしが愛用する流行遅れの型の眼鏡をからかいたかった訳じゃないらしい。
 思ってもいなかった事を言われたように、少しもどかしそうな表情で小首を傾げた。


 何だ、いやだ、いい歳した男が。
 あざといけど、可愛い。
 さっきの心のこもってない謝罪ポーズをしたステラより断然可愛いじゃない。

 今の今まで、遠目にしか拝見したことが無い王子様のご尊顔は間近で見たら……
 わたしとしたことが。
 色恋など捨てていたわたしとしたことが。
 あろうことか、きゅんとしてしまったのだ。


「あぁ……ごめんなさい。
 疑うみたいに聞こえたんだよね、すみませんでした。
 僕は経済学部3年のフィニアス・ペンデルトンと言います。
 どうぞよろしくお願いします」

 大金持ちの御曹司なのに腰が低くて、きちんと挨拶もしてくれて、彼の丁寧な対応に少し驚く。
 フィニアス・ペンデルトンは見た目だけ男じゃなかったな、紳士だ、紳士。


「……わたしは史学部3年のダニエル・マッカーシーです。
 こちらこそ、よろしくお願い致します。
 あのう……早速なんですが。
 貴方についての噂は御存じでしょうか?」


「自己紹介なんかされなくても、ここの学生は、特に女子は皆貴方の名前は知ってますよ」と言うのは、止めた。
 ちょっと媚びてるように思われても嫌だったからだ。

 確かにペンデルトンは格好良くて、そのうえ可愛いげもあるけれど、必要以上に愛想は振り撒きたくない。