まだ誰も知らない恋を始めよう

「その古い眼鏡、視力合ってないよ」なんてステラにからかわれて、わたしは立ち上がっていた。
 

 いいよ、信じないなら、ここへヤツを連れてきてやる! って、わたしは燃えた。
 カッと燃え上がったのだ……ペンデルトンとは知り合いでもないくせに。


「ダニエル、何処行くの?」

 ステラに返事もせずに、急いでわたしはペンデルトンの後を追った。
 ……しつこいようだけど、知り合いでもないくせに、だ。


 
 混んでる人波の中でも、ひときわ背が高い彼の姿を見失う事はない。
 足が長いので歩みは早いが、小柄な(チビと言わない) わたしでも小走りでなら、直ぐに捕まえられるはず。

 
 あくまで聞いた話では、選ばれし生まれのフィニアス・ペンデルトンは、意外な事に冷たい人間ではないらしい。
 だったら、初対面のわたしが声を掛けても無視はしないだろう……多分。


 一抹の不安はあるものの、そのまま彼を追いかけた。
 自分でも、わたしは何してるんだろうと思いながら、だったけれど。
 1度だって挨拶をした事も、話した事も無い男子学生を追いかけるなんて、我ながらどうかしてる。
 恐らくわたしも明日からの連休で、少なからず浮かれていたのだと思う。 

 それに加えて。
 さっきカフェテリアへ向かう途中でシーバス教授に会い、まだゼミ生でもないのに、秋の国外発掘調査に同行してもいいわよ、と御本人から声を掛けられた。