まだ誰も知らない恋を始めよう

 自分の家が経営しているとは言え、無銭飲食に良心が咎め始めてるのかな。
 それに多くの人の目を掻い潜ってのつまみ食いは、ゆっくり味わうことも出来ないだろうし、スリリング過ぎて疲れて来ているのかも。


「やっぱり、人から隠れて1人で食べても、味もよく分からないし。
 ダニエルと話しながら食べたら、美味かったし」

「あんな魚を焼いただけの、じゃがいも茹でたり揚げたりしただけの?
 全部味付けは塩を掛けただけよ?」

「うん、絶妙の塩加減だった」

 これには、本当に驚いた。
 えぇ、あれが美味しかった?
 王子様は凝ったソースに飽食して、舌がシンプルな塩味を求めているのかもしれない。


 それからもずっと手を掴まれたままで、まるで連行されるように歩きながら、この連休中は自分の分も一緒に夕食を作って欲しいと頼まれた。

 1人分も2人分も作る手間は変わらないので、了承する。 
 何より、その間の食費は任せて、と膨らんだ彼の財布を渡されたし。
 太っ腹な雇い主に感謝しつつ、これまでは行けなかったムーア百貨店の食料品売場へ、思いきって足を踏み入れた。
 こんな機会は二度と無いものね。