まだ誰も知らない恋を始めよう

「……クソ親父、何だ、これ……」

 本を抱えて兄は文句を言うが、鼻先を人差し指で触れていた。
 これは照れているサインだ。

 見て見ぬふりを決めたわたしはフィンに尋ねた。


「お父様は、どうしてこの本の存在を?
 ファンタジー小説なんか……」

「最初に俺に、ダニエルのシリーズを勧めたのは父だった。
 君達兄妹が、モーリスとダニエルだから、きっとマッカーシー子爵は、と教えてくれた」

「そんなものは読むな、と言われたんじゃなかった?」

「取り上げられたのは、ダニエルのシリーズじゃなくて」

 恥ずかしかったのか、彼は兄に聞こえないように、わたしの耳元で教えてくれた。
『幽霊は実在した!王都目撃マップ!』なんだ、と。


 
 実は父から物凄く愛されている、と判明した兄の話もしよう。

 残念ながら、メイトリクスの証言だけではシーバス夫妻の逮捕には至らなかった。
 隷属魔法による自白を証拠にするのは弱くて、やはり現場を押さえての物的証拠が必要だった。

 兄は夫のドナルド・シーバスの定年まで残り1年を切った事で、最後の大きな動きがあるだろうと踏んで、妻アイリーンの渡航先との逮捕後執行猶予取引も止む無しと、魔法庁と司法省に進言した。