まだ誰も知らない恋を始めよう

   ◇◇◇


 帝国で働く3年の間、彼は何度もこちらに戻ってきた。
 沢山のお土産と、あちらでの苦労話を携えて、わたしに会いに来る。

 この前は兄にもお土産を渡していた。


「子供向けの小説だろ? 何で……」

 最初は不審げだった兄も、本のタイトルを見て黙った。


「父から聞きました。
 あの小説には番外編があったけど、既にこちらではブームが去っていて、翻訳されて無かったって。
 だから俺は読んでなかったんですけど、お兄さんもでしょう」

 聖剣の勇者ダニエルの作者は、帝国の人だった。
 翻訳されて無かったのなら、あの少年向けファンタジー小説に番外編があったなんて、兄も知らなかったはずだ。

 フィンから渡された小説のタイトルは
『裏切り者の真実』
 外国語学部卒の兄とは違い、わたしは帝国語を話せないが、読むのは少しだけ出来た。


「何故、親友だった魔道騎士モーリスが勇者ダニエルを裏切ったのか、それが判明します。
 帝国では、ダニエルよりもモーリスの方が人気があるんですよ」

 その初版の日付は、31年前だ。
 世界中をうろついていた父は、この本も読んで、兄にモーリスと名付けた?