まだ誰も知らない恋を始めよう

   ◇◇◇


 ここからは、その場に居たベッキーさんから俺に送られてきた画像と音声だ。


「ねぇ、何なの? 皆は何処?
 もう始まっているんでしょ? 早く行かなきゃ」


 夕食会場ではなく、温室へとサミュエルに案内された叔母夫婦は戸惑っていた。

 我儘なカレラ・アボットに成り替わったメイトリクスはそれらしく、わざと遅れてきたくせに勝手な文句をサミュエルにぶつけていたが、エスコートの腕をそのままにしたマーレイは黙って辺りを見回すだけだった。
 以前のマーレイなら、邸内ではエスコートの腕をさり気なくだが、直ぐに外していたのに、今夜は叔母のなすがままにしていた。
 
 同居しているだけのロジャーよりも、朝から夜までずっと側に付かれてる夫の方が、メイトリクスの影響を受けやすいのでは、とダニエルとベッキーさんから聞いていたので、そのせいかもしれない。



「わたし、ここで良かったわ。
 あの場に居たら、あいつの臭いで倒れていたかも」

 俺と同じ画像を見て、独り言のようにアリアさんが呟く。
 読みたくもない心の中を見せられるダニエルも大変だが、嗅ぎたくもない悪臭を嗅いでしまう、この能力は気の毒としか言いようがない。