まだ誰も知らない恋を始めよう

 遅番の勤務を終え(今日もチーフは残ったケーキを渡してくれた)、店が手配してくれたキャブで家へ帰ると、兄がわたしを待っていた。


 魔法学院での赤毛のベッキー教官との面会を、余程気に掛けてくれていたのね。
 わたしも明日の午前中には、報告と相談に行く予定にしていたので、兄の方から来てくれたのでよかった、と思ったのに。


「お疲れのところ、悪いけど。
 赤毛から連絡有ったから」

「あー、そう……」

 顔を見るなりの兄の物言いからは圧を感じて、面白くないわたしが居る。
 会ったら、先ずは身分証を用意してくれた御礼を言うつもりだったのに。
 
 
 ベッキーさんからの連絡よりも後手に回ったのは、フィンの家に行ったり、仕事があったからで、わざと報告を怠ったわけじゃないし。
 ジェリーからも兄に報連相をするのは大事だと忠告もされていて、ちゃんとそうしなきゃなと思っていたし……なんてちょっとムカついて。

 所詮、わたしが標榜していた誰とも争いたくない平和主義なんて、外面だけのこと。
 兄に対しては、素直さの欠片もない生意気な妹だ。 


 わたしより先にベッキーさんから連絡があって、何があったのか聞いているのなら、それでいいじゃない。

 そんなこんなを説明するのが面倒で投げ遣りな気持ちになったけれど、わたしは思い出した。

 言葉足らずや思い込みで誤解して、君にはお兄さんとすれ違って欲しくない、と言ってくれたフィンを、思い出した。