まだ誰も知らない恋を始めよう

 父は俺が書いた文章を読んで、しばらく考え込んでいたが、立ち上がると社長室から出て行った。

 何も言わずに出て行った父が戻ってくるまでの間、置いていかれた俺は、社長室の窓から空を眺めた。



 父は、助けて、と頼んだ俺をどう思ったんだろう。
 今まで碌に返事もしなかったのに泣きついて。
 情けない男だと呆れて、出て行ったのか。


 自分でも分かっている、俺自身には何もない。
 自分で稼いだ資金も、自力で繋いだ人脈も。
 オルのような魔力も、ダニエルのような能力も持たざる者の俺が持っているものがあるとするなら、それは生まれだけ。
 
 だったら、それしか無い俺は、それを利用する。  
 祖父と父の財力と伝手を、素直に借りる。
 助けて貰う事を恥と思うな、力の無い自分を卑下するな。
 今の俺に出来る事は……
 


 しばらくして戻ってきた父が、今度は一人掛けソファーに腰を下ろした。


「お前が自分から私に頼み事をしてきたのは、何年ぶりだ?
 ……いいだろう、これまでのあらましを全部、隠さずに書け。
 20分超えてもいい」

 
 仕事優先の父が、俺のために。

 自ら、バーグマンに予定変更を伝えに行くとは思ってもみなかった。