まだ誰も知らない恋を始めよう

 わたしはなるべくなら、目立ちたくない。
 ペンデルトン家の家紋入りのピカピカの自動車でムーア家経営のお店まで送られる小娘、なんて人目に付くんじゃないだろうか。 
 シーズンズ正面の表通りで降ろして貰うのは勿論目立つし、従業員入口や搬入口のある裏通りでも、大型の超高級自家用車は目立ち過ぎる。


 実際はそうではなくても、ペンデルトンとムーアはライバル関係だと見られている。
 どんな噂が立つかわからない。
 それこそ、ゴシップ級の噂だ。
 しかし、それを正直にお気遣いくださるご夫妻に告げるのがはばかられて。


「わたし、考え事をしながら、のんびりバスに乗って行くのが好きなんです」

「あぁ、オムニバスか……2階は気持ちいい、と聞きますね」

「まぁ、そうなの?
 今度わたしも、ダニエルさんと一緒に2階に乗ってみたいわ」


 王子様のフィンと同様に、国王ご夫妻も路線バスなんかに乗ったことはないんだろうな。


「はい、ぜひ」

 さっきと同じ返事をして曖昧に笑うわたしに、フィンが近付いて来て急に抱き締められたから、混乱した。
 この抱擁はご両親からは見えないのに、とんでもないところを見られたようで赤面してしまう。


「な、な、何!?」

「俺は……君が望んだように家に帰ったよ。
 だから君も、どうか危ない事からは手を引いて、これまでの生活に戻ってくれる?」

「……わかってる」

「お願いだから絶対に、白黒両方の魔法士に近付かないで……
 で、これが無事に解決したら。
 俺が前みたいに戻れたら。
 あの時話したみたいに、ふたりで初めての場所へ行って、色んな景色を見に行こう」

 
 背中に回された彼の手に、ぎゅっと力が入って。
 更に固く抱きしめられた。