まだ誰も知らない恋を始めよう

 立場を弁えろとの父の言葉に動けないグレンダを、母が何とも言えない微妙な表情で見ていた。
 自分を庇う言葉が母から出ないので、ようやくグレンダは何かをもごもごと口にして、父に頭を下げ、静かに部屋を出て行った。


 その時父には頭を下げたが、母には視線も向けない事から、グレンダの母に対する本音が見えた。
 長い付き合いで、母への敬いが薄れたのか。
 母とは主従ではなく、気弱な妹を守る姉のように自分を位置付けていたのか。
 思い返せばグレンダは父には遠慮していたが、母と叔母、母と俺の間にいつも立っていた。


 多分、父も彼女の忠心を疑ってはいない。
 きっと様々なものからおっとりした母を守る内に、全て自分が代わりに、となっていったのだ。

 

「挨拶が遅れて、申し訳ありません。
 私はフィニアスの父のザカリー・ペンデルトンです。
 こちらは母親のルディアで、お恥ずかしい話ですが、息子が出て行ってからは、精神的に参っているような状態でして。
 どれだけ情けない母親かと思われたでしょう」