まだ誰も知らない恋を始めよう

 縋り付く母を抱き止めながら、俺の起こした残状に目をやって、父は眉を顰めた。
 ただそれだけで、いつもと変わりなく見えるが、ものすごく機嫌が悪いと俺にはわかる。


「グレンダ、席を外してくれるか。
 ここからは家族のみで話す」

「いえ、旦那様。
 わたくしが奥様のお側におりませんと」


『席を外せ』だけではなく、『ここからは家族のみで』と言われたグレンダが納得出来ないように父に言い返すのが信じられない。
 グレンダはこのような女だったか?

 母とは幼い頃からの仲とは言え、彼女の身分は専属侍女でしか無い。
 現状の雇い主は父だ。
 その父の指示に言い返した?


「同じ事を2度も言わせるな。
 ルディアはお前が側に居なくても、大丈夫だ。
 それに、先程からの会話は隣で聞いていた。
 お前の、フィニアスに対する考えも……成人した私の息子を世間知らずの坊ちゃん、とはな」


 もっと早くから父は、戻っていたのだろう。
 通された応接室の暖炉の上には鏡が貼ってあって。
 それはマジックミラーで、隣から応接室の様子が見え、そのうえ会話も聞ける。

 サミュエルが母に伝えた時、既に父は隣の部屋でこちらの様子を伺っていたんだ。
 そこで、グレンダの態度や物言いを知った父は……



「そ、それは言葉の綾でございます。
 フィニアス様の事は、わたくしは赤子の頃より自分の子供のように愛しく……」

「間違えるな、フィニアスは主の息子で、お前の子供ではない。
 考えの甘いのをいい事に、だったか?
 それはルディアに対するお前の事だろう。
 ペンデルトンはお前の家ではない。
 今のお前は私に雇われた侍女でしか無く、それ以上ではない。
 それを忘れ、私と妻の子を我が子のように愛しいだの、うちの財産を狙っているだの、2度と口にする事は許さない。 
 これからは出過ぎた真似はせず、立場を弁え、仕えるだけでいい」