まだ誰も知らない恋を始めよう

 時は、5月第2週の金曜日のランチタイム。
 場所は、午前の授業が終わり、お腹を空かせた連中でごった返している第3カフェテリア。
 外の天気は晴天、開かれた窓からは気持ちのいい風が緑と花の香りを運んでくる。
 

 週明けから、うちの大学独自のスプリング・ウィークが始まって5日間の休みに入る。
 土曜日と日曜日の、元々のお休みの週末を入れて、明日から合計9日間の連休を誰もが待ちわびていた。
 もちろん、わたしもそんな中の1人だ。
 周囲の皆も、ふわふわとどこか浮わついたような表情を見せていて、後は午後からの授業を受けるだけ。
 そんな気の抜けた雰囲気が辺りにただよう平和な昼休み。
 


「フィニアス・ペンデルトンが行方不明になったんだって」

「……」

 大学の同級生であるステラに言われて、どう返せば良いのか分からないわたしはただ頷くのみで、ランチに付いているサラダを食べている。

 フィニアス・ペンデルトンの噂をわたしに聞かせたのは、ステラ・ボーンズ。
 彼女は同じ史学部で、同じ教授に師事している、言わば戦友だ。
 よって、わたしの日常を把握しているはずのステラが、何故わたしとは全く関わりがない、あのペンデルトンの噂を知っているかと尋ねるのか訳が分からない。
 彼が有名人だから、単にランチタイムの話題に出しただけ、じゃないの?
 
 
 ステラの思惑がわからなくて、
「ペンデルトンが消えたのは、わたしには何の関係も無いけど?」と返事を返したいが、そうすれば角が立つような気もするから言わない。
 わたしは平和主義者なのだ。


「だからね、あのフィニアスが行方不明なんだって噂よ?
 本当に聞いてないのね?」