三学期が始まって一週間が経とうとしていたが、愛梨は一度も学校に姿を見せていない。
日菜子や麻帆、新田も心配しているが、隼人からも愛梨からのメッセージも「体調不良」と告げられただけだった。
愛梨も心配だが、目の前の隼人も辛そうだった。
新田がやっとの思いで問いただすと「いま愛梨とすれ違ってる」ということだけ聞き出せた。
冬の曇り空の下、校庭の桜の木の枝が風に揺れている。
毎年桜の開花を見ているはずなのに、この時期の枝だけの姿からは、一面ピンク色に染まる風景がなかなか思い出せない。
校門を出たところで後ろから声をかけられた。
佑香だった。
「久しぶり。元気?…って言いたいところだけど…ぜんぜん元気じゃなさそうだよね」
「…うん…まあ……」
並んで歩き少し沈黙が続いた後、佑香が切り出した。
「もしかして、木下さんとうまくいってない?」
隼人がどう答えようか迷っていると、佑香が続けた。
「…この話、いま言っていいのか分かんないんだけど、前から気になってることがあって」
「話してくれていいよ」
隼人の表情には暗く重い雰囲気が漂っているが、口調は穏やかだった。
「木下さんとサッカー部の水野くん、同じ中学だったって聞いたの」
隼人は足を止めて佑香を見た。
「でも、二人とも塾が同じだって言ってた」
「そう。私も藤島からそう聞いてたのに、修学旅行の帰りの空港で二人と同じ中学の子がいて、その子がそう言ってたの」
なぜ中学が同じことを二人して隠す必要があるのか。
隼人は思い出した。
林間学校の夜、愛梨が倒れた側に水野が居たということを。
もしかしたらその時もクリスマスイブの時のような発作だったのではないか。
発作が起きる程の何かがあった…。
「佑香、ありがと」
隼人はそう言って、来た道を引き返す。
サッカー部が練習している第二グラウンドに向かった。
部室から出てきた水野に声をかけ、二人で食堂横の自動販売機エリアに移動すると、早速隼人は中学のことを訪ねた。
水野は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐさま「そうだよ。同じ中学だった」とあっさり認めた。
「中学の時、愛梨と何かあった?」
水野は何かを知っている、そう確信した。
「誤解がないように言うけど、木下と個人的に何かあったわけじゃないよ。中二の時同じクラスだったんだ。まあ、木下は夏休み明けたらアメリカ行っちゃったけどね…」
水野は小銭を取り出し、自動販売機の前に立った。
ペットボトルのスポーツドリンクのボタンを押す。
水野がそれを一口飲み終えたところで、隼人はまた尋ねた。
「それと…林間学校で愛梨が倒れた時、ほんとは何かあったんだろ?」
水野は黙ったまま手に持ったペットボトルを見つめている。
「実は、冬休みに愛梨と会ってる時、発作が起きたんだ」
水野は険しい表情で隼人を見た。
「もしかして、そのせいでまだ学校来られないのか?」
隼人は、その後愛梨から「友達に戻りたい」と言われたことを話した。
「いきなりそんなこと言われて、混乱してるんだよ…ほんと、マジで」
水野は、いつもクールな隼人がここまで本音を出すことに驚いた。
「藤島…ごめん…」
水野は声を絞り出すように言った。
「俺は、ここまでしか言えない」
そして「だけど」と続けた。
「木下はアメリカに行ってた時間を取り戻したかったんだよ。それで決死の覚悟で日本に戻ってきたんだと思う」
日菜子や麻帆、新田も心配しているが、隼人からも愛梨からのメッセージも「体調不良」と告げられただけだった。
愛梨も心配だが、目の前の隼人も辛そうだった。
新田がやっとの思いで問いただすと「いま愛梨とすれ違ってる」ということだけ聞き出せた。
冬の曇り空の下、校庭の桜の木の枝が風に揺れている。
毎年桜の開花を見ているはずなのに、この時期の枝だけの姿からは、一面ピンク色に染まる風景がなかなか思い出せない。
校門を出たところで後ろから声をかけられた。
佑香だった。
「久しぶり。元気?…って言いたいところだけど…ぜんぜん元気じゃなさそうだよね」
「…うん…まあ……」
並んで歩き少し沈黙が続いた後、佑香が切り出した。
「もしかして、木下さんとうまくいってない?」
隼人がどう答えようか迷っていると、佑香が続けた。
「…この話、いま言っていいのか分かんないんだけど、前から気になってることがあって」
「話してくれていいよ」
隼人の表情には暗く重い雰囲気が漂っているが、口調は穏やかだった。
「木下さんとサッカー部の水野くん、同じ中学だったって聞いたの」
隼人は足を止めて佑香を見た。
「でも、二人とも塾が同じだって言ってた」
「そう。私も藤島からそう聞いてたのに、修学旅行の帰りの空港で二人と同じ中学の子がいて、その子がそう言ってたの」
なぜ中学が同じことを二人して隠す必要があるのか。
隼人は思い出した。
林間学校の夜、愛梨が倒れた側に水野が居たということを。
もしかしたらその時もクリスマスイブの時のような発作だったのではないか。
発作が起きる程の何かがあった…。
「佑香、ありがと」
隼人はそう言って、来た道を引き返す。
サッカー部が練習している第二グラウンドに向かった。
部室から出てきた水野に声をかけ、二人で食堂横の自動販売機エリアに移動すると、早速隼人は中学のことを訪ねた。
水野は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐさま「そうだよ。同じ中学だった」とあっさり認めた。
「中学の時、愛梨と何かあった?」
水野は何かを知っている、そう確信した。
「誤解がないように言うけど、木下と個人的に何かあったわけじゃないよ。中二の時同じクラスだったんだ。まあ、木下は夏休み明けたらアメリカ行っちゃったけどね…」
水野は小銭を取り出し、自動販売機の前に立った。
ペットボトルのスポーツドリンクのボタンを押す。
水野がそれを一口飲み終えたところで、隼人はまた尋ねた。
「それと…林間学校で愛梨が倒れた時、ほんとは何かあったんだろ?」
水野は黙ったまま手に持ったペットボトルを見つめている。
「実は、冬休みに愛梨と会ってる時、発作が起きたんだ」
水野は険しい表情で隼人を見た。
「もしかして、そのせいでまだ学校来られないのか?」
隼人は、その後愛梨から「友達に戻りたい」と言われたことを話した。
「いきなりそんなこと言われて、混乱してるんだよ…ほんと、マジで」
水野は、いつもクールな隼人がここまで本音を出すことに驚いた。
「藤島…ごめん…」
水野は声を絞り出すように言った。
「俺は、ここまでしか言えない」
そして「だけど」と続けた。
「木下はアメリカに行ってた時間を取り戻したかったんだよ。それで決死の覚悟で日本に戻ってきたんだと思う」
