着替え終わると、男子達に足止めされていた隼人が待っていた。
「この二人並ぶとヤバ過ぎない?」
いつの間にか愛梨と隼人は写真撮影場所に連れて行かれ、撮影大会が始まった。
「なんでお前が着替えてんだよ」
隼人は小声で話しながら愛梨を横目で見る。そして帽子を更に深く被った。
「訳分かんないまま、いきなり着替えることになったのよ」
愛梨はわざとぶっきらぼうに答えたが、内心はすごく嬉しかった。
調理係で忙しくしながらも、時々隼人とお客さんの撮影現場を見ては羨ましくてたまらなかったのだ。
一通り撮影が終わると、二人で他の模擬店を見に行くことにした。
案の定並んで歩く二人は注目の的で、愛梨はずっと下を向いたままだ。
マントを翻すように長い足で歩く隼人の姿にドキドキした。
すると、いきなり隼人が愛梨の手を取って足を速める。
「やっぱ目立ちすぎてダメだ。こっち行こう」
先程までの喧騒が嘘のように、運動部の部室付近は静まり返っていた。
部室裏にある植え込みの端に並んで座る。
「はー疲れた」
隼人は帽子を取って髪を振る。
愛梨は「お疲れさま」と言って隼人の髪を少し整えてあげた。
「調理係もけっこう忙しかったよな」
「ほんと、ずっとパンケーキの生クリームのトッピングしてたような気がする」
「甘い匂いがする」
隼人の顔が愛梨の首元に近づいてきた。
愛梨は隼人の髪をそっと撫で、「その服装、めちゃくちゃ似合ってるよ」と囁いた。
「ここへ連れてきたのは休みたかった、てのもあるけど…他の男に愛梨の姿、見せたくなかった」
隼人と目が合う。
そのまま顔が近づき、愛梨は目を閉じた。
いつもより長めのキスに愛梨は胸をキュッと掴まれたような気持ちになる。
愛梨のスマホが震えた。
隼人は顔を離して正面に向き直る。
見ると、日菜子から写真が送られてきた。
「日菜子と麻帆も結局メイド服着てる」
接客係の女子から借りたのだろう。二人ともしっかり着替えて笑顔で写っている。
「日菜子のポニーテール、かわいい」
隼人も愛梨のスマホ画面を覗き込む。
「愛梨も髪が長かった頃、その髪型してた時あったな」
愛梨のスマホをタップする手が止まる。
(髪が長かった頃…)
「隼人は…長い髪だった頃の私が好き?」
「え?」
隼人はその質問になぜか違和感を覚えた。
そして愛梨の短い髪を撫でながら「短いのもかわいい」と答えた。
「順調そうね」
三条医師は一通りパソコンに入力した後、穏やかな笑みで愛梨の方に向き直した。
「はい、発作の薬もぜんぜん飲んでないです」
愛梨も笑顔で答えた。
「彼とも順調みたいね」
今度は少し恥ずかし気に「はい」と答えた。
そして、少し真顔になる。
「最近、私、彼にあのこと話してもいいかな、と思うようになったんです」
三条医師はゆっくり頷く。
「付き合っていくうちに、なんか、信頼みたいなものが強まってきたような気がして。ありのままを話しても受け入れてくれるんじゃないかって思ってます」
「黙ってるのがしんどくなった?」
愛梨は少し目線を落とす。
「正直、それもあります」
三条医師はまた黙って頷く。
「先生、そんな理由で話すのって、私のワガママですよね?」
愛梨は握っている手に思わず力を込めた。
「それをワガママかどうか決めるのは、彼じゃないかな」
愛梨は三条医師の顔を真っ直ぐ見つめる。
「ワガママって思われてもいいじゃない。受け入れる彼とそれを乗り越える木下さん。一人ずつじゃなく二人で少しずつ前に進んで行けばいいんじゃないかな」
「この二人並ぶとヤバ過ぎない?」
いつの間にか愛梨と隼人は写真撮影場所に連れて行かれ、撮影大会が始まった。
「なんでお前が着替えてんだよ」
隼人は小声で話しながら愛梨を横目で見る。そして帽子を更に深く被った。
「訳分かんないまま、いきなり着替えることになったのよ」
愛梨はわざとぶっきらぼうに答えたが、内心はすごく嬉しかった。
調理係で忙しくしながらも、時々隼人とお客さんの撮影現場を見ては羨ましくてたまらなかったのだ。
一通り撮影が終わると、二人で他の模擬店を見に行くことにした。
案の定並んで歩く二人は注目の的で、愛梨はずっと下を向いたままだ。
マントを翻すように長い足で歩く隼人の姿にドキドキした。
すると、いきなり隼人が愛梨の手を取って足を速める。
「やっぱ目立ちすぎてダメだ。こっち行こう」
先程までの喧騒が嘘のように、運動部の部室付近は静まり返っていた。
部室裏にある植え込みの端に並んで座る。
「はー疲れた」
隼人は帽子を取って髪を振る。
愛梨は「お疲れさま」と言って隼人の髪を少し整えてあげた。
「調理係もけっこう忙しかったよな」
「ほんと、ずっとパンケーキの生クリームのトッピングしてたような気がする」
「甘い匂いがする」
隼人の顔が愛梨の首元に近づいてきた。
愛梨は隼人の髪をそっと撫で、「その服装、めちゃくちゃ似合ってるよ」と囁いた。
「ここへ連れてきたのは休みたかった、てのもあるけど…他の男に愛梨の姿、見せたくなかった」
隼人と目が合う。
そのまま顔が近づき、愛梨は目を閉じた。
いつもより長めのキスに愛梨は胸をキュッと掴まれたような気持ちになる。
愛梨のスマホが震えた。
隼人は顔を離して正面に向き直る。
見ると、日菜子から写真が送られてきた。
「日菜子と麻帆も結局メイド服着てる」
接客係の女子から借りたのだろう。二人ともしっかり着替えて笑顔で写っている。
「日菜子のポニーテール、かわいい」
隼人も愛梨のスマホ画面を覗き込む。
「愛梨も髪が長かった頃、その髪型してた時あったな」
愛梨のスマホをタップする手が止まる。
(髪が長かった頃…)
「隼人は…長い髪だった頃の私が好き?」
「え?」
隼人はその質問になぜか違和感を覚えた。
そして愛梨の短い髪を撫でながら「短いのもかわいい」と答えた。
「順調そうね」
三条医師は一通りパソコンに入力した後、穏やかな笑みで愛梨の方に向き直した。
「はい、発作の薬もぜんぜん飲んでないです」
愛梨も笑顔で答えた。
「彼とも順調みたいね」
今度は少し恥ずかし気に「はい」と答えた。
そして、少し真顔になる。
「最近、私、彼にあのこと話してもいいかな、と思うようになったんです」
三条医師はゆっくり頷く。
「付き合っていくうちに、なんか、信頼みたいなものが強まってきたような気がして。ありのままを話しても受け入れてくれるんじゃないかって思ってます」
「黙ってるのがしんどくなった?」
愛梨は少し目線を落とす。
「正直、それもあります」
三条医師はまた黙って頷く。
「先生、そんな理由で話すのって、私のワガママですよね?」
愛梨は握っている手に思わず力を込めた。
「それをワガママかどうか決めるのは、彼じゃないかな」
愛梨は三条医師の顔を真っ直ぐ見つめる。
「ワガママって思われてもいいじゃない。受け入れる彼とそれを乗り越える木下さん。一人ずつじゃなく二人で少しずつ前に進んで行けばいいんじゃないかな」
