「えー!!」
日菜子と麻帆の驚きの声がファミレス内に響き渡り、他の客の視線が一斉にこちらに向いた。
三人は思わず身を小さくする。
「なんかすごい急展開なんだけど」
麻帆は周りの目を気にしながら二人に顔を寄せた。
「観覧車の中で告白って、めちゃくちゃエモい」
日菜子は目を輝かせている。
「もう、また日菜子の妄想モードが始まったよ」
「二人には色々心配かけたよね、ごめんね」
愛梨は改めて二人に頭を下げた。
「城見さんのこともあったし、藤島くんは水野くんと愛梨の仲を誤解してる感じだったし、なんか、ごちゃついてたよね」
「でも愛梨と藤島くんはずっと両思いだったわけでしょ?それなら城見さんに遠慮することないって」
日菜子の言葉に愛梨はオレンジジュースの入ったグラスを持ったまま固まる。
「どうしたの?愛梨」
「私はずっと隼人のこと想ってたけど…隼人はずっとなのかは…そういえば聞いてなかった」
日菜子と麻帆も一瞬固まった。
「別にそこは深く考えなくてもいいんじゃないの?藤島くんもちゃんと告白してくれたんだし」
「そうだよ、おいおい聞いたらいいよ」
二人はそう言って安心したような笑顔を見せた。
二人と別れた愛梨は、スポーツドリンクやゼリー飲料を買ってから学校に向かった。
グラウンドでは一年生らしきサッカー部員がボールの入ったカゴを運んでいる。
部室の近くで待っていると、二年生部員が数名出てきた。
「水野くん」
水野は一瞬驚いたような表情になったが、すぐにいつもの人懐っこい笑顔に戻った。
「花火大会では、ご迷惑をおかけしました」
愛梨はここでもまた頭を下げる。
今日はお詫びばかりの日だ。
「え、わざわざそのために来てくれたの?」
「花火大会でみんなとはぐれた時、水野くんも必死で探してくれたって隼人から聞いて」
愛梨は水野と周りに居る二年生部員に、買ってきた差し入れを配った。
花火大会で一緒だった男子もいる。
「やったー、ありがとう、木下さん」
「おい、これは俺への差し入れだぞ」
水野は他の部員が手に取ったペットボトルを取り返そうとする。
「色々買ってきたし、みなさんでどうぞ」
そう言ってニコッと笑った愛梨を見て、全員の顔が緩む。
一人の部員が「俺ら、先帰るわ」と水野を見てニヤニヤしながら寮へ帰って行った。
愛梨と水野は木陰に移動する。
「サッカー部のみんな、仲いいよね」
「まあ寮生活だし、自然と距離が近くなるよな」
水野はスポーツドリンクを一口飲んでこう続けた。
「はぐれた時ホントに大丈夫だった?」
愛梨はビールを片手に近づいてきた男達の姿を思い出す。
今でも震えそうになるが、帰り道でずっと手を繋いでくれた隼人の後ろ姿を上書きして安心する。
「…うん、結局隼人が家まで送ってくれたから、大丈夫だったよ」
「そっか…」
水野は愛梨の横顔を見た。
サラサラの髪が木陰を通る風に揺れている。
「あの時、先に俺が見つけてたら…」
「え?」
愛梨はよく聞き取れなかった。
「ううん、なんでもない」
水野はいつもの笑顔で答えた。
(さっきからずっと、隼人って言ってるんだよなぁ)
帰っていく愛梨の後ろ姿を見ながら、水野は小さくため息をついた。
夏休みの間は予備校帰りの隼人と待ち合わせてファストフード店に行ったり、図書館で勉強したり、映画も観に行った。
映画を観た帰り、愛梨はいつも以上に隼人と別れるのが嫌で少し駄々をこねてしまった。
隼人は、「暗くなるから」と愛梨をなだめて家まで送ってくれた。
二学期が始まり、夏休みの課題を無事提出すると、二年生は一気に修学旅行モードになった。
日菜子は表紙に大きく「北海道」と書かれたガイドブックを開く。麻帆の姉が持っていたものを借りてきてくれた。
愛梨のスマホの検索履歴も北海道一色だ。
決まった班ごとにカヤックやトレッキングなどのアクティビティを体験する日もあれば、小樽や札幌の町散策は基本自由行動となっている。
日菜子はガイドブックの小樽のページを開き、にっこりしながら愛梨を見る。
「愛梨はもちろん、藤島君と小樽観光するんだよね」
「いや…まだ決めてない」
愛梨もガイドブックに視線を落とす。
レンガ作りのレトロな街並みの写真が大きく掲載されている。
この数日、隼人との会話のメインも修学旅行だが、二人での観光は言い出せずにいた。
彼氏彼女になって、会話したり出掛けたりすることはだいぶ慣れてきたが、周りにクラスメイトや友達が居るなかでの修学旅行中の振る舞い方が想像できなかったのだ。
出会ってからもうすぐ六年になるが、二人が過ごした時間に見てきた景色の多くは、学校でも街中でもなく、病院だった。
「やっぱラーメンは外せないよな」
購買で買ってきたパンを手に教室に入ってきた新田は、愛梨たち三人の元へ駆け寄ってくる。
すぐ後ろには隼人も居て、愛梨に何か話しかけようとしたようだったが、手に持っていたスマホ画面を一同に見せた。
画面にはエビやホタテなどの海鮮がたっぷり乗ったラーメンの写真が「小樽名物」という文字と共に写し出されている。
そのまま話題はラーメン、スープカレー、ソフトクリームなどの食べ物に移り、あっという間に五人での自由行動プランの主軸ができあがってしまった。
でも愛梨はそれでいいと思った。
いつもの新田と日菜子の掛け合いが、修学旅行というプラスのオプションが付いてパワーアップしていたし、いつもクールな麻帆もスマホの検索の手を止めようとしない。
愛梨は隼人を見る。
隼人も笑顔を返してくれた。
九月下旬の北海道は快晴で、歩くと少し汗ばむほどだった。
一日目は選択制のアクティビティで、愛梨たち三人は森のトレッキングを選んでいた。
愛梨は林間学校での山登りの失敗を思い出し、自分の体力に気を付けながら白樺が綺麗な森を歩き、乗馬も体験した。
同じアクティビティを選んでいた佑香と何回か目が合ったが、気にしないようにした。
「乗馬、どうだった?」
宿泊するホテルの夕食会場を出たところで、隼人に声をかけられた。
愛梨はスマホをタップし、日菜子に撮ってもらった写真を見せる。
「おー、普通に乗ってるな」
「なにその感想。そりゃ普通に乗るよ」
「面白エピソード期待してたのに」
隼人は笑いながら愛梨の頭にポンと手を置いた。
愛梨はドキリとする。
他の生徒もぞろぞろと会場から出てくるのに、最近の隼人は徐々に遠慮が薄れてきている感じがする。
先日の下校時も、まだ同じ高校の生徒がたくさん居る駅で手を繋ごうとしたのだ。
隣のクラスの女子生徒達がちらちらとこちらを見ながら横を通り過ぎる。
(隼人はとにかく目立つんだって)
隼人は愛梨の頭に手を置いたまま少し顔を寄せてきた。
「三十分間、新田たちには別の部屋に行ってもらうことになったから、後で俺の部屋、来て」
愛梨はスマホを握りしめたまま固まってしまった。
日菜子と麻帆の驚きの声がファミレス内に響き渡り、他の客の視線が一斉にこちらに向いた。
三人は思わず身を小さくする。
「なんかすごい急展開なんだけど」
麻帆は周りの目を気にしながら二人に顔を寄せた。
「観覧車の中で告白って、めちゃくちゃエモい」
日菜子は目を輝かせている。
「もう、また日菜子の妄想モードが始まったよ」
「二人には色々心配かけたよね、ごめんね」
愛梨は改めて二人に頭を下げた。
「城見さんのこともあったし、藤島くんは水野くんと愛梨の仲を誤解してる感じだったし、なんか、ごちゃついてたよね」
「でも愛梨と藤島くんはずっと両思いだったわけでしょ?それなら城見さんに遠慮することないって」
日菜子の言葉に愛梨はオレンジジュースの入ったグラスを持ったまま固まる。
「どうしたの?愛梨」
「私はずっと隼人のこと想ってたけど…隼人はずっとなのかは…そういえば聞いてなかった」
日菜子と麻帆も一瞬固まった。
「別にそこは深く考えなくてもいいんじゃないの?藤島くんもちゃんと告白してくれたんだし」
「そうだよ、おいおい聞いたらいいよ」
二人はそう言って安心したような笑顔を見せた。
二人と別れた愛梨は、スポーツドリンクやゼリー飲料を買ってから学校に向かった。
グラウンドでは一年生らしきサッカー部員がボールの入ったカゴを運んでいる。
部室の近くで待っていると、二年生部員が数名出てきた。
「水野くん」
水野は一瞬驚いたような表情になったが、すぐにいつもの人懐っこい笑顔に戻った。
「花火大会では、ご迷惑をおかけしました」
愛梨はここでもまた頭を下げる。
今日はお詫びばかりの日だ。
「え、わざわざそのために来てくれたの?」
「花火大会でみんなとはぐれた時、水野くんも必死で探してくれたって隼人から聞いて」
愛梨は水野と周りに居る二年生部員に、買ってきた差し入れを配った。
花火大会で一緒だった男子もいる。
「やったー、ありがとう、木下さん」
「おい、これは俺への差し入れだぞ」
水野は他の部員が手に取ったペットボトルを取り返そうとする。
「色々買ってきたし、みなさんでどうぞ」
そう言ってニコッと笑った愛梨を見て、全員の顔が緩む。
一人の部員が「俺ら、先帰るわ」と水野を見てニヤニヤしながら寮へ帰って行った。
愛梨と水野は木陰に移動する。
「サッカー部のみんな、仲いいよね」
「まあ寮生活だし、自然と距離が近くなるよな」
水野はスポーツドリンクを一口飲んでこう続けた。
「はぐれた時ホントに大丈夫だった?」
愛梨はビールを片手に近づいてきた男達の姿を思い出す。
今でも震えそうになるが、帰り道でずっと手を繋いでくれた隼人の後ろ姿を上書きして安心する。
「…うん、結局隼人が家まで送ってくれたから、大丈夫だったよ」
「そっか…」
水野は愛梨の横顔を見た。
サラサラの髪が木陰を通る風に揺れている。
「あの時、先に俺が見つけてたら…」
「え?」
愛梨はよく聞き取れなかった。
「ううん、なんでもない」
水野はいつもの笑顔で答えた。
(さっきからずっと、隼人って言ってるんだよなぁ)
帰っていく愛梨の後ろ姿を見ながら、水野は小さくため息をついた。
夏休みの間は予備校帰りの隼人と待ち合わせてファストフード店に行ったり、図書館で勉強したり、映画も観に行った。
映画を観た帰り、愛梨はいつも以上に隼人と別れるのが嫌で少し駄々をこねてしまった。
隼人は、「暗くなるから」と愛梨をなだめて家まで送ってくれた。
二学期が始まり、夏休みの課題を無事提出すると、二年生は一気に修学旅行モードになった。
日菜子は表紙に大きく「北海道」と書かれたガイドブックを開く。麻帆の姉が持っていたものを借りてきてくれた。
愛梨のスマホの検索履歴も北海道一色だ。
決まった班ごとにカヤックやトレッキングなどのアクティビティを体験する日もあれば、小樽や札幌の町散策は基本自由行動となっている。
日菜子はガイドブックの小樽のページを開き、にっこりしながら愛梨を見る。
「愛梨はもちろん、藤島君と小樽観光するんだよね」
「いや…まだ決めてない」
愛梨もガイドブックに視線を落とす。
レンガ作りのレトロな街並みの写真が大きく掲載されている。
この数日、隼人との会話のメインも修学旅行だが、二人での観光は言い出せずにいた。
彼氏彼女になって、会話したり出掛けたりすることはだいぶ慣れてきたが、周りにクラスメイトや友達が居るなかでの修学旅行中の振る舞い方が想像できなかったのだ。
出会ってからもうすぐ六年になるが、二人が過ごした時間に見てきた景色の多くは、学校でも街中でもなく、病院だった。
「やっぱラーメンは外せないよな」
購買で買ってきたパンを手に教室に入ってきた新田は、愛梨たち三人の元へ駆け寄ってくる。
すぐ後ろには隼人も居て、愛梨に何か話しかけようとしたようだったが、手に持っていたスマホ画面を一同に見せた。
画面にはエビやホタテなどの海鮮がたっぷり乗ったラーメンの写真が「小樽名物」という文字と共に写し出されている。
そのまま話題はラーメン、スープカレー、ソフトクリームなどの食べ物に移り、あっという間に五人での自由行動プランの主軸ができあがってしまった。
でも愛梨はそれでいいと思った。
いつもの新田と日菜子の掛け合いが、修学旅行というプラスのオプションが付いてパワーアップしていたし、いつもクールな麻帆もスマホの検索の手を止めようとしない。
愛梨は隼人を見る。
隼人も笑顔を返してくれた。
九月下旬の北海道は快晴で、歩くと少し汗ばむほどだった。
一日目は選択制のアクティビティで、愛梨たち三人は森のトレッキングを選んでいた。
愛梨は林間学校での山登りの失敗を思い出し、自分の体力に気を付けながら白樺が綺麗な森を歩き、乗馬も体験した。
同じアクティビティを選んでいた佑香と何回か目が合ったが、気にしないようにした。
「乗馬、どうだった?」
宿泊するホテルの夕食会場を出たところで、隼人に声をかけられた。
愛梨はスマホをタップし、日菜子に撮ってもらった写真を見せる。
「おー、普通に乗ってるな」
「なにその感想。そりゃ普通に乗るよ」
「面白エピソード期待してたのに」
隼人は笑いながら愛梨の頭にポンと手を置いた。
愛梨はドキリとする。
他の生徒もぞろぞろと会場から出てくるのに、最近の隼人は徐々に遠慮が薄れてきている感じがする。
先日の下校時も、まだ同じ高校の生徒がたくさん居る駅で手を繋ごうとしたのだ。
隣のクラスの女子生徒達がちらちらとこちらを見ながら横を通り過ぎる。
(隼人はとにかく目立つんだって)
隼人は愛梨の頭に手を置いたまま少し顔を寄せてきた。
「三十分間、新田たちには別の部屋に行ってもらうことになったから、後で俺の部屋、来て」
愛梨はスマホを握りしめたまま固まってしまった。
