「その店の前のベンチで、俺雨宿りがてら休んでたんですよ。その日も喧嘩した後で。そしたら先輩が声掛けてきて」
(え?)
なぜか楽しそうに鳴神くんは言う。
「『営業妨害です。お客さんが怖がって入れないのですぐに移動してください』って」
「あ!」
「思い出しました?」
――思い出してきた。
確かに、去年そんなことがあった。
雨の日にびしょ濡れで、おまけに血だらけのガラの悪い男の子がベンチに座っていて、お客さんだけじゃなくてバイト仲間もみんな怖がっていた。
私も勿論怖かったけれど、このままじゃマズイと思って勇気を振り絞って声を掛けたのだ。
「あれ、鳴神くんだったの!?」
「はは、今とは全然違うでしょ?」
確かに、記憶の中のその男の子と今の鳴神くんとは全然違う。



