「鳴神の女ってアンタ?」
「は?」
放課後、雨の中を足早に駅に向かっているときだった。
向こうから歩いてきた見知らぬ男の子にそう不躾に声をかけられ私は足を止めた。
他校の制服をだらしなく着たその男子はこの雨の中傘もささず、制服の下に着こんだパーカーのフードを被っていた。
そのせいで口元が笑っているのはわかるけれど鼻から上が見えない。
……直感で、あまり関わらない方が良さそうだと思った。
それに、この後バイトで急いでいるのだ。
「違います」
「あれぇ、違ったかな。アンタだと思ったんだけど」
「人違いです。それでは」
軽く一礼して、早々にその場を去ろうとしたときだ。
「っ!?」
すれ違いざまにガっと強く腕を掴まれてびっくりする。
お蔭で傘が地面に落ちてしまった。
「何するんですか!」
「ちょっと一緒に来てくんないかな?」
「だから私は」
「じゃないと、鳴神が大変なことになるけど?」
「!?」
口調は軽いのにフードから覗いた目が全然笑っていなくて、ぞっと震えが走った。



