しゃべりたかった。

今日も保健室へ行った。

 宿題をやっていると、先生が言った。
「もうすぐ卒業かあ。」
 と。
 そう、わたしは6年生なのだ。今年で卒業。
 場面緘黙症と発覚したのが今年で、去年までは普通のクラスに通っていた。
 場面緘黙症には、2種類の子がいるらしい。
 活発な子もいれば、大人しい子もいる。
 わたしは大人しい方だと思う。
 誘われたら参加するけど、自分からは誘えない。
 だから、体育で誰かとペアになる時とか、休み時間とか、基本1人。(体育の時は先生と組んでる。)
 そして、声を発すこと自体ムリな子と、しゃべることがムリな子がいる。
 わたしの場合、しゃべることがムリな方。前も言ったけど、授業で答えたりはできるし、歌うこともできる。(ただし、人前はムリ。)

「卒業式はどうするの?」

 わたしは固まってしまった。
 できれば参考したくないけれど、そんなことしてしまっていいんだろうか…

「別に行かなくたっていいんだよ。梨沙ちゃんの気持ちを大切にして。」
 先生が優しく言った。
 そうなの!?とわたしは驚いた。
 なら…
 でも、声で伝えるのは難しい…

「言えなかったら紙に書いて渡してくれる?」
 先生が言った。
 それならいいや!
 わたしはさっそく白い紙にえんぴつで字を書いた。
 先生のつくえに置いていくと、すぐに読んでくれた。
 読み終えると、先生は
「そうだね。」
 と言った。


 宿題を終えると、もうお昼だった。

 給食を食べて、掃除をして、宿題をしていると、お母さんが迎えにきた。

 一緒に帰っていると、お母さんが聞いてきた。
「どうだった?楽しかった?」
 うん、とうなずいた。
 いつの間にか、あの空間がいいものになっていた。



 ――
今日は本を借りに、人のいない時間を見計らって、先生と図書室へ行った。


 本が好きなわたしは、図書室が大好き。

 本を見て回っていると、1冊の本が目に入った。

『場面緘黙症って?』
 という本だった。
 思わず手に取り、パラパラめくった。

 その本を借り、わたしは保健室に戻った。

 保健室で、わたしは本を夢中で読んだ。
 小説以外でこんなに読んだのは初めてかもしれない。

 本当に当てはまることがたくさんあって、やっぱりそうなんだな…
 と思った。

 先生にこのことを話したいのに、うまく声が出ない。
 ――ああ、どうして?わたしは、しゃべれないの…
 思わず泣いてしまった。
 それを見て先生があらどうしたの?と慌てていた。
 ――伝えたいのに、伝えたえられない。
 先生がよしよしとしてくれた。
「わたし…しゃべりたいのに…しゃべれなくて…」
 思わず言葉が漏れた。
 伝えられた、と嬉しかった。
 泣いていて、上手く考えられなかったんだろうか。
 先生は感激していた。
「そうか。よく言えたね。凄いよ。でもね、ちょっとずつでだいじょうぶ。すこしずつ、しゃべる練習をしよう。ムリだったら紙でもいいし。」
 先生の言葉に、どれだけ救われただろうか。
 心がすっと軽くなって、涙も止んだ。
 そして、こくん、とうなずいた。

「そうだね、毎朝入って来る時、おはようを言うのはどうかな?」
 と先生が提案した。
 なるほど、とわたしは思った。
 うなずくと、お母さんが迎えにきた。


 家に帰り、わたしは本を見ながらパソコンをやっていた。
 何をしてるのかというと、場面緘黙症の小説を書いているところ。
 もっと多くの人に知ってほしいから、という思いで今日始めた。