〇綺世の回想・綴の昔の家
今から十年前(綴八歳、綺世六歳)。
綴『はじめまして! つづりです。よろしくね!』
綺世『つづちゃん……』
綺世【初めて会った時から優しくてかわいいつづが大好きだった】
綺世母『ダメよ、綺世。ちゃんと綴さまと呼びなさい』
綴『つづちゃんでいーよ! わたしはあやくんって呼ぶね!』
綺世『つづちゃん』※へにゃっと笑う
綺世【身分とか関係なく、いつも優しくしてくれた。毎日一緒に遊んでいた】
綴母『あまり綴と綺世くんを一緒に遊ばせないでくれる?』
綺世母『申し訳ございません、奥様……』
綴母『綴、千歳家の令嬢らしく振舞いなさいといつも言っているでしょう? 綺世くんと遊ぶのはやめなさい』
綺世『!』※悲しそうな顔
綴『やだ!』
綴母『綴!?』
綴『わたしはあやくんと遊びたい! あやくんといっしょがいいもん!』
綺世『……っ』※嬉しそうな顔
〇千歳家の庭
綺世『つづちゃん、だいすき』
綴『わたしもあやくんのことだいすきだよ! あやくんはわたしのおとーとだもん!』
綺世『おとーと……』
〇綺世と母親の部屋
綺世『お母さん、きょーだいはけっこんできる?』
綺世母『え? どうして?』
綺世母『つづちゃんがぼくのことおとーとだって。ぼく、つづちゃんとけっこんしたい』
綺世母『綺世……! あのね、兄弟は結婚できないの。兄弟じゃなくても、綺世と綴さまは結婚できないのよ』
綺世『どうして……?』
綺世母『身分が違うもの。奥様が許すはずないわ』
綺世【当時はどうしてダメなのか理解できずに泣いた。でも何となくつづの母親から嫌われているということはわかっていた】
綺世(おとーとじゃダメなんだ。もっとつよくならなきゃ!)
綺世【それからは勉強も運動もなんでも頑張った。母さんの手伝いもたくさんして、少しでも認めてもらえるように】
勉強や運動、家の手伝いなどを積極的にやって頑張る綺世。
〇大きな犬がいる家の前
黒い大型犬がウーーと呻っている。
綴『あのわんちゃん、おっきくてすぐほえるからちょっとこわい……』
綺世『だいじょうぶだよ、つづちゃん。ぼくがつづちゃんのこと守るから!』
綺世【少しでも頼ってもらえて、つづを守れるような男になりたかった。
でも、つづと離れ離れになって――】
解雇され、母親と共に千歳家を去る綺世。
〇三年前・レストラン
綺世、綺世の母、母の再婚相手と初めて会って食事をするシーン。
綺世【それから母さんがあの玖央ホールディングスの社長と再婚することになり、俺の生活は一変した。
義父の意向で糸奈学園に通うことになり、A組に組分けされた】
A組の白ブレザーに袖を通す中学一年生の綺世。
綺世(つづちゃんと同じ制服……! 今の俺なら認めてもらえるかもしれない)
綺世【だけど、つづの父親の会社は倒産してしまい、つづは引っ越してしまっていた。すぐに会いに行こうとしたけど】
〇糸奈学園中等部・三年A組の教室
綺世『あの、千歳綴先輩っていますか?』
女子生徒『え、千歳さん? もういないよ。彼女、D組に行ったから』
綺世『えっ……』
女子生徒『寄付金払えなくてD組に落ちちゃったの。ヤバいよね』※小ばかにしたような笑み
綺世『なっ……!』
女子生徒『ところで君、一年の玖央くんだよね? パパの会社が玖央ホールディングスの傘下で、とってもお世話になってるの』
綺世『だから何?』
女子生徒『えっ、だから仲良く……』
綺世『そんなの俺には関係ないし、あんたと仲良くするつもりはない』
軽蔑した表情で女子生徒を睨み付ける綺世。
〇中等部廊下
D組の教室がある校舎に行こうとする綺世、先生(男性)に呼び止められる。
先生『玖央くん! どこへ行くんです? そちらはD組の教室でしょう』
綺世『だからD組に行こうと……』
先生『冗談はやめてください。君は誇り高きA組の生徒ですよ? 選ばれた人材であり、普通の生徒とは違うんです』
納得がいかないというような、複雑な綺世のアップ。
先生『さあ、戻りましょう。次の授業が始まります』
綺世『……っ』
ぎゅっと拳を握りしめる。
綺世【この学園は家柄と金がすべてだ。俺自身は何も変わってないのに、玖央ホールディングスの御曹司というだけで皆見る目を変える。
つづのこともそうだ、事情も知らずにD組に落ちたと見下している】
綺世(つづちゃんがどんな思いでいるのかも知らないくせに……っ)
綺世【玖央ホールディングス御曹司という肩書は、俺の力じゃない。今のハリボテみたいな自分では、つづには相応しくないと思った】
〇綺世の部屋
今まで以上に勉強に励む綺世。
綺世(もっと勉強して、早く一人前になりたい。早く自立したい。そうだ!)
〇一年前・リビング
綺世母『えっ、高校では一人暮らししたい?』
綺世『うん、母さんは弟たちがいて大変だろうし、俺に構ってる余裕なんかないと思うから』
綺世母『でも……』
綺世義父『いいんじゃないか? これから勉強も忙しくなるだろうし、その方が集中できるだろう』
綺世『……ありがとう、義父さん』
〇高等部入学式前日・綺世の部屋
鏡の前で自分を眺める綺世。
綺世『……』
〇リビング
綺世『ただいまー』
綺世母『おかえり……どうしたの、その髪!?』
綺世『染めてみた』
髪色をピンク色に染めた綺世。
綺世【髪をピンクに染めたのは、ちょっとした反抗心だった。A組というだけで選ばれたエリート扱いされるのが煩わしい。
玖央ホールディングスの御曹司と持ち上げられるのもめんどくさい】
〇入学式当日・高等部校舎
綺世(頭がピンクならヤベー不良扱いされて誰も近づいてこないだろ……)
女子生徒A「えっ、あれ玖央くん!? めちゃくちゃカッコイイんだけど!!」
女子生徒B「キャーー! やばい、アイドルみたい!!」
きゃあきゃあと女子たちから騒がれまくる綺世。
綺世(こんなはずじゃなかったんだけどな……)
綺世【他の女子から好かれても意味がない。たった一人に好かれないと意味がない――】
〇現在・高等部廊下
第1話で綴と綺世が再会するシーン。
綺世(相変わらずかわいい……)
綺世【つづと再会し、同居することになった。少しでも意識して欲しくて、「毎日キスして」なんて言ってしまった】
綺世【だけど、結局弟扱いされるのが悔しくて――】
綺世が綴にキスしたシーン。
〇ショッピングモール・ゲームアーケード
綴と結川が笑顔で話しているシーン。
嫉妬を滲ませた綺世のアップ。
綴の手を引いて連れ出す綺世。
綺世【でも、結局俺はガキのままだ。つづが好きでたまらなくて、誰にも奪われたくなくて独り占めしたい】
切なく苦しそうな綺世ときょとんと綺世を見つめる綴のアップ。
綴「あやくん?」※ぬいぐるみを抱きしめてきょとん
綺世「……」
綴のほっぺを両手で掴む綺世。顔が近い。
綴「!?」
綺世「……」※無言でじっと見つめる
綴「??」
綴(えっ、もしかして……またキスされる!?)
むにっとほっぺを両手で押されてアヒル口になる綴。
綴「!?」
綺世「ばーか」
綺世【少しくらいは意識しろよ、男として】
綺世「キスされると思った?」
綴「!! お、思ってないよっ!」
綺世(かわいい)
綴の耳にキスする綺世。
綴「……!! ひゃっ」
綺世「隙あり」※ぺろっと舌を出す
綴「~~っっ、もう! あやくん!!」
綺世「つづが隙ありすぎなんだよ」
綴のほっぺをむにむにする。
綺世【本当に隙ありすぎ。こんなに無防備なのは俺の前だけにしてほしい】
綺世(それも意識されてないからだと思うとムカつくけど)
綴「う~~」←されるがまま
綺世「……早く気づいてよ」※小声
綺世【早く俺のこと好きになって。俺のことしか考えられなくなってよ】