○朝・綺世の寝室
制服にエプロン姿の綴が寝ている綺世を起こす。


綴「あやくん起きてー! 遅刻しちゃうよ!」
綺世「ん……、」


寝ぼけている綺世。微笑ましくクスッと笑う綴。


綴(あやくん、朝苦手なところは変わってないんだなぁ……)
綴「おはよう」
綺世「…………」


ぐいっと綴の腕を引き寄せ、ほっぺにキスする綺世。


綴「……っ!?」
綺世「――おはよ、つづ」


ニヤッとイタズラに微笑む綺世のアップ。
真っ赤になって悶絶する綴。


綴「〜〜〜〜っ!! あやくん!!」
綺世「ははっ」


キスされたほっぺを押さえる綴。


綴「も〜〜〜〜……」

綴【あれから私はあやくんの家で住み込みの家政婦をさせてもらっている。寄付金を返すためにも頑張って働くつもりだけど――、毎日キスは心臓がもたない】


○リビング
綴の作った朝食を二人で食べる。メニューは白ごはん、味噌汁、焼き魚。
味噌汁をすする綺世。

綺世「うまい」
綴「本当!?」
綺世「うん、これ好き」
綴(こうやってると、昔の頃を思い出すんだけどな……)


バチっと二人の目が合う。


綺世「どうしたの?」
綴「なんでもないよっ」
綺世「そ?」
綴「……っ」※顔が赤くなる
綴(うう、結局あのことがどういうことなのか聞けてない!)

綺世『やっぱり毎日キスしてよ』※前話回想

綴(ファーストキスだったのに! あやくんのばかっ!)
綴(キスなんて、好きな人としかしないでしょ……?)


自分の唇に触れながら頬を赤らめる綴のアップ。


○昼休み・三年D組の教室
紗良「つづりーん! お昼どうするー?」
綴「お弁当持ってきた!」
紗良「えらぁ! 毎日自分で作ってるんでしょー? ウチなんて毎日学食〜」
綴「学食の方が当たり前だもんね」


糸奈学園は高級レストラン並の学食がある。
クラス毎にメニューが違う。上の組程豪華。


綴「あれ?」


通学カバンの中をまさぐる綴。


綴「ない! お弁当がない!!」
紗良「ガチ?」
綴「うわー!! 忘れてきたのかも!」
女子たち「きゃあああああああっ」


突然女子たちの悲鳴が轟く。
廊下の外から教室を覗く綺世。綴を見つけるとニコッと笑いかける。


綺世「つーづ」
綴「あ、あやくんっ!?」


背後では「キャーーー」と騒ぐ女子たち。紗良もびっくり。
「なんで玖央くんが?」「笑顔ヤバい!」など教室中がざわつく。三年の間でもアイドル並に人気の綺世。
騒がれていることはお構いなしに、教室に入って綴の元へ行く綺世。


綺世「つづ、忘れてったでしょ?」


お弁当を入れた袋を見せる綺世。


綴「あっ」
綺世「一緒に食べよ」
綴「えっ!?」
綺世「ほら行こ」


戸惑う綴をグイグイ引っ張って連れてゆく綺世。
ポカーンとしながら綴たちを見送る紗良とクラスメイトたち。
メガネをかけた真面目そうな黒髪男子・結川(ゆいかわ)真尋(まひろ)が紗良に話しかける。
結川はクラスの学級委員長。


結川「(たかむら)さん」
紗良「あ、いいんちょ」
※篁は紗良の苗字
結川「今の一年の玖央くんだよね。千歳さんと仲良いの?」
紗良「なんかー、幼なじみらしーよ?」
結川「幼なじみ……」


意味深な表情の結川のアップ。


○屋上庭園
緑豊かな屋上庭園。A組しか入れない特別な場所。
戸惑う綴をグイグイ引っ張る綺世。


綴「あやくん! ここ、A組じゃないと入れないとこだよね!?」
綺世「そうなの? よく知らない」
綴「お、怒られるから……っ」※冷や汗ダラダラ
綺世「なんで?」


ソファベンチに綴を座らせる。


綺世「俺がいるんだから大丈夫でしょ」
綴「そーかなー……」
綺世「それより一緒にお昼食べよ」
綴「う、うん」
綺世「つづのお弁当楽しみにしてたんだー」


パカっと弁当箱を開ける。
牙を剥き出しにした犬が今にも吠え出すようなリアルなお弁当(かわいさよりもリアルな怖さ。どうやって作った? くらいの出来栄えで)。


綺世「…………え。」
綴「あれ!? 覚えてない? うちの近所にいためっちゃ吠える犬! おっきくて怖い子!」
綺世「いや覚えてるけど、弁当で再現する!?」


表情をくしゃっとさせて大笑いする綺世。


綺世「しかもリアルすぎ! どうやって作ったの?」
綴「のりで……」
綺世「器用すぎでしょ!」


大爆笑の綺世。涙を浮かべる程笑ってる。


綴「え、変!? 結構頑張ったんだけど!」
綺世「ううん、ありがとう。頑張りの方向性がつづらしくて最高」


笑いながらお弁当を一緒に食べる二人。和やかな雰囲気。


綴(――ハッ!! なんかつい和やかになってしまったけど、それどころじゃない!!)
綴「あやくん!」


ビシッと手を挙げる綴。


綺世「何?」
綴「あやくんには感謝してるよ。結局居候させてもらって、寄付金まで……寄付金は絶対何年かかっても返すから!」
綺世「何年かかっても……か」
綴「す、すぐには無理だけど! 絶対返しますので!!」
綺世「つまりずっとお世話してくれるってこと?」


ちょん、と綴の唇に自分の指を当てる綺世。
かああああっ! と顔が真っ赤になる綴。


綴「〜〜っっ、近いよっ!!」


真っ赤になりながらぐいっと綺世を押し出す綴。


綴「家政婦の仕事はしっかりやるけど! その、なんでき、きす……なの?」※キスが恥ずかしくて小声
綺世「ダメ?」※上目遣い
綴(うぐ……っ!!)※綺世のおねだりに弱い
綴「そんな顔してもダメなものは……っ」


綴に近づいて鼻先にキスする。


綴「!?」
綺世「つづがかわいいからキスしたくなっちゃうんだよね」


ぺろっと舌を出してイタズラっぽく笑う綺世。


綴「〜〜っっ」※顔真っ赤
綴(あやくんってば……私のことからかってるんだな!?)
綺世「それに今は俺がご主人様でしょ? 俺のワガママ聞いてくれるよね」
綴「むむむむ……!!」


○廊下
綺世と別れて一人とぼとぼ歩く綴。


綴「はあ……これから毎日あやくんに振り回されるの……?」
綴(かわいかった私の弟はどこへ行っちゃったの??)


一人溜息を吐いていると、結川が綴を呼ぶ。


結川「千歳さん!」
綴「!」


くるりと振り返る綴。結川のアップ。


綴「結川くん!」
結川「次、移動だから一緒に行こう」
綴「うん! 紗良ちゃんとは別だから嬉しい」
※選択科目なので別々

綴【結川くんはお父さん同士が仕事仲間で、D組に落ちる前から知り合いなんだよね。
だから男の子の中でも一番話しやすい】


結川「千歳さん、最近大丈夫? なんか大変そうに見えるけど」
綴「大丈夫! 心配してくれてありがとう」
結川「……僕にできることがあったら言ってね」
綴「うん、ありがとう!」
綴(結川くんはいつも気にかけてくれて頼りになる。……あ、そうだ)


二人並んで歩きながら廊下を歩く。


綴「結川くん、聞いてもいい?」
結川「ん?」
綴「男の子って好きな人じゃなくてもキスできるの?」
結川「!?」


思わず吹き出す結川。真っ赤になりながら聞き返す。


結川「な、なんで!?」
綴「いや、その! わ、私の友達が言っててね!? 友達にキスされたって……」※ごにょごにょ
結川「……、少なくとも僕は好きな人としかしたくないな」


頬を赤らめながら真面目な顔で答える結川。


結川「僕は絶対好きな人としかしない」※綴の目を見て真剣に
綴「……、そうだよね! ごめんね、変なこと聞いちゃった」
結川「ううん……」
綴(普通は好きな人と……だよね。やっぱりあやくんって――)
綴(反抗期!?)※ディフォルメでアップ
綴(あり得る!! 髪の毛ピンクに染めたのも反抗期だからかもしれない!!)

結川「ねぇ千歳さん、一年の玖央くんと仲良いの?」
綴「! お、幼なじみなんだ」


綺世のことを考えていた時に綺世の名前を出されてドキッとする綴。


綴「昔はあや……玖央くんのお母さんがうちで家政婦してくれてたんだけど、今は私が家政婦することになってさ。見事に立場が逆転しちゃった」
結川「千歳さん……彼に遊ばれてない?」
綴「ど、どういうこと?」
結川「だって、よく女の子に囲まれていてかなりモテるし、見た目も派手じゃない」
綴「違うよ! いやモテるのは事実だけど、あやくんはそんなこと――、」
結川「それに、A組は僕らD組のこと見下してるし」
綴「っ、あやくんはそんなことないよ!」


綴と結川の間に微妙な空気が流れる。


結川「……気分悪くさせたらごめん。ただ僕は千歳さんのことが心配なんだ。ただでさえD組なんかって言われるのに、目立つ玖央くんと一緒にいて千歳さんが嫌な思いするんじゃないかって」
綴「結川くん……」
綴(確かに私がA組からD組に落ちてきた時、みんなに白い目で見られた。元クラスメイトにも、今のクラスメイトにも。普通に接してくれたのは、紗良ちゃんと結川くんだけだった)


綴のことをヒソヒソと周囲が噂するカット。


綴「心配してくれてありがとう。結川くんはいつも優しいよね」
結川「……っ」
綴「でも大丈夫! 何か言われたくらいじゃへこたれないよ!」


ニコッと微笑む綴のアップ。結川目線なのでキラキラでかわいらしく。


結川「……っ、千歳さんのそういうところが」


頬を染めて俯く結川。


綴「え?」
結川「ううん、なんでもないよ……」


綴から目を逸らしながら頬を赤らめている結川のアップ。