○綺世の家のリビング
綺世「毎日キスして」
綴「えっ? えっ? き、きす……?」
綺世「ふはっ」
綴「!?」


吹き出す綺世と戸惑っている綴。


綺世「冗談だよ」
綴「じょ、じょーだん……」
綺世「ま、昔はよくしてたけどね」
綴「あっ、そうだったね……!」


〜回想〜
小学生の頃、綺世のほっぺにちゅーする綴。
〜回想終了〜


綴(び、びっくりしたぁ……)
綺世「あ。お客さん用の布団、ないんだった……つづちゃん、俺のベッド使って」
綴「えっ、あやくんは?」
綺世「ソファで寝る」
綴「ダメだよ! いきなり私が押しかけたんだから床で寝るよ」
綺世「それこそないでしょ」
綴「あ、じゃあ! 一緒に寝ようよ!」
綺世「え……っ」
綴「昔は一緒に寝てたじゃない。懐かしいよねー、あやくんが眠れないって私のところ来てさぁ……」
綺世「つづ」※綴の台詞を遮る
綴「え?」


綺世、綴に近づく。綴のほっぺに触れ、キスできそうなくらい顔が近づく。


綴(えっ!? えーーーーーー!?)


綺世、綴の耳元で囁く。


綺世「――いいの?」
綴「っ!」
綺世「それこそうっかりキスしちゃうかもよ?」


綴の髪の毛を救い、髪にキスする綺世のアップ。


綴「へ……っ」


かあああっ! と顔が真っ赤になる綴。


綺世「なーんて」


綺世、パッと綴から離れる。


綺世「もう子どもじゃないんだからさ、シングルベッドに二人は狭いでしょ」
綴「…………あ、」
綺世「俺はブランケット被って寝るから大丈夫。つづがベッド使って」
綴「あり、がとう……?」


○廊下
パタンとリビングの扉を閉める綴。思い出して顔が真っ赤になる。両手で頬を押さえてる。


綴(い、今の何!?!?)
綴(あやくんってあんなに大人っぽかったっけ!? 昔はもっと無邪気な天使だったのに……っ。急にちゃん付けじゃなくなったし!)


小学生の頃の甘えん坊だった綺世のカット。


綴「キスなんて、冗談でもそんなこと言うなんて……」

綴【弟みたいに思ってたけど、今のあやくんは私の知ってるあやくんじゃないのかも――?】


○翌朝・ダイニングキッチン
エプロン姿で朝食を作る綴。スウェット姿で寝起きの綺世。


綺世「おはよう……」
綴「おはよう、あやくん!」
綺世「朝ごはん作ってくれたの?」
綴「うん! 簡単なものだけどね」


トーストと目玉焼き、ウインナーの朝食。


綺世「おいしそう……!」


パァッと表情を明るくさせる綺世。子犬みたいな感じで。


綺世「朝ごはん抜きがちだったから久しぶりかも」
綴「そうなの? ちゃんと食べなきゃ」
綴(良かった、あやくんと普通に話せてる。昨日はびっくりしちゃったけど、やっぱりあやくんはかわいいあやくんだな!)※ホッとする


○通学路
並んで歩く綴と綺世。周囲がチラチラと綺世を盗み見ている(特に女子)。


綴「……なんかあやくん、見られてない?」
綺世「頭が目立つからじゃない?」←ピンク髪
綴「そっか。あやくん、なんでピンクにしたの?」
綺世「特に理由はないけど、何となく?」
綴「何となくでピンクにする?」


談笑しながら歩く二人。学園内に入ると、もっと視線が綺世に集中する。刺々しい視線が綴にも向けられている。


女子生徒A「ちょっと、なんで玖央(くおう)くんがD組なんかと一緒にいるの!?」
女子生徒B「あの女、何者!?」


綴(くおーくん? って誰??)※キョトン顔

紗良「つづりん!!」
綴「あっ、紗良ちゃん! おはよう!」
紗良「ちょっと!! なんで一年のピンク王子と一緒なわけ!?」


綴のことを引っ張り、こそこそ耳打ちする紗良。


綴「ぴ、ピンク王子?」
紗良「一年A組の玖央綺世のことだよ! 玖央ホールディングス御曹司の!!」
綴(え。)
綴「えぇーーーー!?!?」
紗良「なんでつづりんがびっくりしてんの!?」

綴【玖央ホールディングスって、国内でも有数の大手企業だよね!? お父さんの会社が傾く前は何度か取引があったって言ってた、あの玖央ホールディングス!?】

綺世「あれ、言ってなかったっけ? 母さんが再婚して玖央になったって」
綴「初耳ですね??」
綴(ずっと白ブレザーなの気になってはいたけど、まさか玖央ホールディングスの御曹司になってたなんて!!)

綺世「別にすごくも何ともないよ」
綴「いや、でも……っ」
綺世「つづ、終わったら迎えに行くから」
綴「えっ!!」
綺世「また後でね」


笑顔でぽんと綴の頭を撫でる綺世。思わず頬が赤く染まる綴。
その後ろではキャーッ! と悲鳴をあげるモブ女子。


○三年D組の教室
紗良「ピンク王子とどーゆー関係なの!?」
綴「ピンク王子って……あやくんのこと?」
紗良「ウチがつけた」
綴「紗良ちゃんらしい。あやくんは幼なじみだよ」
紗良「幼なじみ!? ヤバぁっ!」
綴「うちで家政婦してくれてた人の息子だったんだけど、まさか玖央ホールディングスの御曹司になってたなんて」
綴(なんか立場が逆転しちゃったなぁ)
紗良「てか入学式の時からピンク髪の超絶イケメンで騒がれまくってたじゃん。知らなかったん?」
綴「知らなかったですね……」←バイトのことで頭いっぱいだった人
紗良「ファンも鬼いるから気をつけな〜?」
綴「やっぱりあやくん、モテるの?」
紗良「モテるどころじゃないっしょ。あのルックスでA組、しかも勉強も運動もめちゃくちゃできるハイスペイケメンだし」
綴「す、すごい……」
綴(同居してるってバレたら絶対ダメだ――……!!)

綴【そもそもずっと居続けるのは流石に迷惑かけちゃうし、早く出て行かないと。
そう思っていたのだけど――】


○学園の中庭・人目に付きにくい場所
綴の周りを数人のA組女子が腕を組んで囲み、睨みつけている。

A組女子A「あなた、玖央くんの何なの!?」
綴「何、と言われましても……」
綴(なんか突然呼び出されたと思ったら早速目を付けられた……!!)
A組女子B「D組のくせに玖央くんに近づくなんて生意気! 身の程をわきまえなさいよ!」
綴(う、わかる……わかりみが深い)


詰められているのにうんうんと頷いている綴。


A組女子C「てゆーかあなた、寄付金払えなくて退学寸前なんですって?」
綴「!」
A組女D「そんな貧乏人がどうして糸奈学園にいるの?」
A組女子E「とっとと辞めちゃえばいいのに!」
綴「それは、できません!」


キッパリと言い切る綴に少し面食らうA組女子たち。


綴「私はこの学園を卒業するって決めてるから」
綴(おじいちゃんとおばあちゃんのためにも、きちんと卒業したい。お父さんも高校は卒業して欲しいって言ってるし)
A組女子A「だから何よ! あんたの事情とか知らないし! とにかく玖央くんには近づかないで!!」
綴「……!」


思い切り突き飛ばされ、後ろに倒れそうになる綴。そんな綴を抱きとめる綺世。


綴「あ、あやくん!?」
綺世「怪我ない? つづ」
綴「だ、大丈夫……!」


顔が近くて思わずドキッとしてしまう綴。
綴の肩を支えたまま、A組女子たちを睨み付ける綺世。


綺世「何してんの? つづが怪我したらどう責任取るわけ?」
A組女子A「ちが……! 私たちはただ、玖央くんのためを思って……っ」
綺世「俺のためを思うと、なんでつづを傷つけていいことになるの?」


本気で怒る綺世の迫力に泣きそうになるA組女子たち。


綴「あやくん、もういいよ。大丈夫だから」
綺世「つづ……」
綴「あのね、私たち幼なじみなの。昔は私の方がお世話される側だったんだけど」
綺世(お世話される側……)※思わず吹き出す
綴「あやくんは優しいから、今でも私なんかを構ってくれてるだけだよ」
綴(そう、あやくんはいつも小さいながら私を守ってくれようとしてくれた)


小学生の頃、綴の前に立ち両手を広げて綴を守ろうとする綺世のカット。


綴(大人っぽくなってもあやくんはあやくんのままなんだよね)

綺世「俺がつづを構うのは、つづが特別だからだよ」


綴の肩を引き寄せて抱き寄せる。


綴(え……!?)※ドキッとする
A組女子たち「……!!」※悔しそうに顔を歪める
綺世「つづに何かしたら、玖央を敵に回すのと同じだから――覚えておいて?」


笑顔だけど圧をかける綺世。怯えたA組女子たちはその場を立ち去る。
ドキドキしながら綺世を見上げる綴。


綴「あ、あやくん……」
綺世「つづ、大丈夫だった?」
綴「だ、大丈夫……ありがとう」
綴(なんかあやくん、全然知らない人みたいだった……)


ドキドキが止まらない綴。


綺世「あと寄付金だけど、つづの名前で一千万振り込んだから」
綴「い、いっせんまん!?」
綺世「これで退学にはならないよ」
綴「ちょっと待って!! そんな大金払ってもらうなんてダメだよ!」
綺世「その代わり、このまま俺のお世話係になってよ。つづのごはん、もっと食べたい」


チワワみたいな瞳で見つめる綺世。綺世のかわいさにハートを射抜かれる綴。


綴(はう……っ!)
綴「ごはんならいくらでも作るけど……! でも寄付金は……!」
綺世「でもつづが呼び出されたのは俺のせいでしょ?」
綴「あやくんのせいじゃないよ!」
綺世「俺のせいだよ。ごめん、もう何もしてこないと思うけど、何かあったらすぐ俺に言って。つづのことは俺が守るから」
綴(あ……その台詞、前にも言われた)

綴【家の近くに吠える大きな犬が怖かった私の手をあやくんがずっと握っていてくれて――】


〜回想〜
綴五年生、綺世三年生。唸る大型犬を怖がる綴の手を握りしめ、綴を守るように歩く綺世。

綺世『だいじょうぶだよ、つづちゃん。つづちゃんのことは僕が守るから』
〜回想終了〜

綴【そう言ってくれたあやくんが心強かった】


昔のことを思い出してふふっと笑う綴。


綴「あやくんはやっぱり変わらないんだね」
綺世「?」
綴「優しくてかわいくてカッコいい、大好きな私の弟!」


はじけるような綴の笑顔のアップ。とにかくかわいらしく。
目を見開く綺世。


綺世「…………弟、ね」
綴「え?」


綴にキスする綺世。突然のキスに固まってしまう綴。


綴(――!?)


唇が離れる。綴のことを真っ直ぐ見つめる綺世。


綺世「やっぱり毎日キスしてよ」
綴「ふぇ……!?」
綺世「寄付金のお礼、キスがいい」
綴「!? えぇーーーーー!?」
綺世「ダメ?」
綴「うっ!」


子犬みたいに甘えた瞳で見つめる綺世。戸惑っているけど綺世のかわいい顔に弱い綴。


綺世「ねぇつづ、俺は“弟”のままでいるつもりはないよ」
綴「へ……、」
綺世「改めてよろしくね? つづ」※ニコッと
綴(ど、どういうことーー!?)