○学校の廊下
気まずそうな主人公・綴のアップ。
メガネをかけた真面目そうな生徒会女子が綴を詰めているシーン。
生徒会(女)「単刀直入に言います。千歳さんは今年に入って以降、寄付金の振り込みが滞っています」
綴「う……」
生徒会(女)「今月中にお支払いいただかないと、退学ですからね」
綴「はい……」
綴【千歳綴、この春から高校三年になったけど――、既に退学のピンチです……】
廊下をとぼとぼと歩いている綴。
綴【私の通う私立糸奈学園は名家の子息令嬢が集うエリート校。
寄付金の多さで明確にランク付けされている】
糸奈学園の校舎のカット。
A→B→C→Dのピラミッド。頂点はA組。綴はD組。
A組のみ白いブレザーを着用し、B〜D組は黒いブレザーでクラス毎にネクタイの色が異なる。
よって一目でクラスがわかることを簡単に説明する。
綴【私は中等部まではA組だったけど、お父さんの会社が倒産して今は最下位のD組。アルバイトをしながら寄付金を稼いでるけど全然足りない】
憂いを帯びた綴のアップ。
綴(おじいちゃんとおばあちゃんが出会った学園で、特におじいちゃんは私が糸奈学園に入学したことを一番喜んでくれた。今は亡きおじいちゃんのためにも、なんとか卒業したいんだけどな……)
曲がり角で誰かとぶつかる綴。
綴「きゃっ! ごめんなさ……」
ヒーロー・綺世の登場シーン。キラキラでカッコよく。
綴(わっ! すごく綺麗なピンクの髪……! しかも白のブレザーってことは、)
A組(女)「ちょっと! どこ見てんのよ!」
綴「ご、ごめんなさいっ」
綺世の隣には綺世の腕に絡まる女子。二人とも白いブレザー。綴はブラックのブレザー。
A組(女)「D組がぼーっと突っ立ってるんじゃないわよ!」
綺世「……」※真顔
綴「……失礼しました」
ぺこっと会釈する綴。
綴をじっと見つめながら通り過ぎる綺世。取り巻きの女子は勝手にくっついているだけなので内心煩わしいと思っている。
二人が通り過ぎてから顔を上げ、溜息を吐く綴。
綴(この学園は学年よりもランクが全て。さっきの子たち多分後輩だと思うけど、そんなの関係ないんだよね)
紗良「つづりーん!」
綴「あっ紗良ちゃん!」
声をかけられ、パタパタと駆け寄る綴。
綺世の後ろ姿のカット。
綺世「――やっと見つけた」
意味深に微笑む綺世のアップ。
○三年D組の教室
隣の席の綴と紗良。
紗良は綴の親友で金髪ギャル。制服は着崩している。
紗良「えーっ!? 寄付金払えないと退学!?」
綴「うん……後で出稼ぎに行ってるお父さんに相談してみる」
紗良「大丈夫? いざとなったらママに頼むよ!?」
※紗良のママは国民的大女優
綴「そんなのダメだよ!」
紗良「つづりんが退学になるとかムリすぎるし!」
綴「ありがとう、紗良ちゃん。でもこれは私の問題だから自分でどうにかしなきゃ」
紗良「つづりん……」
綴「じゃあ私バイト行くね! またね紗良ちゃん!」
紗良「いってら〜」
クラスメイトA「千歳さんって本当にバイトしてるんだ……」
クラスメイトB「寄付金払えないとかヤバいよね」
綴(……意外とコンビニのバイト楽しいし、期限切れのお弁当とかもらえてハッピーなんだけどな)
前向きな綴。クラスメイトの陰口は全く気にしてない。
○夜・コンビニ
アルバイト中の綴。店長が慌ててやってくる。
店長「千歳さん大変! 今千歳さんのアパートの大家さんから連絡があったんだけど……」
綴「?」
○綴のアパート
火事の消防活動が終わった後。アパートは真っ黒焦げ。人だかりができている。
綴「えぇーー!? アパートが火事!?」
大家「そうなの……綴ちゃんの部屋はちょうど火元の真下でねぇ。幸い怪我人はいなかったけど、部屋はとても住める状況じゃないのよ」
綴「そんな!!」
大家「綴ちゃんのお父さんにも連絡したんだけど、お父さんギックリ腰になった上に足を挫いて捻挫したみたいで……今入院してるそうよ」
ギックリ腰になった綴父。倒れそうになって体を支えようとしたら足を挫く。
怪我で入院。ここまでの流れをデフォルメで。
綴(お、お父さーーん!?)
大家「大丈夫? 綴ちゃん、他に頼れる親戚は……」
綴「だ、大丈夫です。何とかします……」
綴【なんて言ってしまったけど、私に頼れる親戚はいない。おじいちゃんとおばあちゃんはもういないし、お母さんは――知らない男の人と出て行ってしまった】
男性と腕を組んで出て行く母親の後ろ姿のカット。
○公園
ブランコに座って途方に暮れる綴。
綴「これからどうしよう……」
綴(寄付金も払えないのに家までなくすしお父さんは入院……流石に心が折れるよ……)
ナンパ男A「ねぇねぇ、君どったのー?」
綴「え?」
ナンパ男A「こんな時間に一人で危ないよー?」
ナンパ男B「俺らが遊んであげよっか?」
綴「あ、いや……」
綴(な、なんか怖い……!!)
ナンパ男B「こっちおいでよー」
綴「あ……っ」
腕を掴まれて思わず体を強張らせる綴。
ぎゅっと目を瞑る。
綴(だ、誰か……っ!!)
綺世「――その手離せよ」
綴(え…………)
目を開ける綴。
綴を守るように前に立つ綺世。ナンパ男の腕を掴み上げ、睨み付けている。
綺世「痛い目見たくなかったら失せろ」
ギロリと睨み付けて威嚇する綺世のアップ。
綺世の圧にビビって逃げるナンパ男たち。
ナンパ男A「お、男いたのかよ……」
ナンパ男が立ち去って安堵する綴。
綺世に向かって深々とお辞儀をしてお礼をする。
綴「た、助けてくれてありがとうございました……!」
綴(この人、今日会ったA組のピンク髪の人だ。なんでD組の私なんかを助けてくれたんだろ……?)
綴「あ、あの、私お礼とか何もできないんですけど……肩揉みとかなら得意です」
綺世「ぷっ」
突然吹き出す綺世。きょとんとする綴。
綺世「全然変わってないね」
綴「え?」
綺世「俺のことわかんない? “つづちゃん”」
綴(あれ? その呼び方は――)
黒髪で天使のようにかわいい男の子の笑顔のカット。
男の子『――つづちゃん! あそぼ!』
綴「も、もしかして、あやくんっ!?」
綺世「当たり」
綴(え、えぇーーーー!?!?)
ぺろっと舌を出してニヤッと笑う綺世。
びっくりしすぎて大絶叫する綴。
綺世「久しぶりだね、つづちゃん」
綴「あやくん!? うわあ……っ! 本物のあやくんだぁ!」
綺世「何それ。偽物とかあるの」
ふはっとおかしそうに微笑む綺世。
綴【佐野綺世くんことあやくんは、私の家がまだ裕福だった頃、住み込みで働いてくれていた家政婦さんの息子さん。
二歳下でかわいくて弟みたいな幼なじみだった】
小さい綴と綺世が一緒に遊んでいる回想カット。
綴の後ろにくっついていく綺世の手を優しく引く綴。姉弟のような雰囲気。
綴【でも会社が倒産して家政婦さんも雇えなくなって、あやくんともお別れすることになっちゃったんだよね】
綴「私が中二の時に別れたから、四年ぶり?」
綺世「そうだね」
綴「あやくんすっごく変わったね!? 身長伸びたし髪はピンクだし全然わからなかったよ!」
綴(最後に会った時は私の方が高かったのに、抜かされちゃったな)
全身で横並びになる綴と綺世のカット。二人の身長差がわかるように。
綺世「これは自分で染めてみた。似合う?」
髪の毛をいじりながらこてんと小首をかしげる綺世。あざとくかわいく。
綴「すっごく似合ってるよ!!」
綴(やっぱりあやくんかわい〜〜♡♡ 大きくなっても私の天使!!)
デレデレしている綴。
綴「あれ? てかあやくん、そのブレザー……」
綺世「それよりつづちゃんはこんなところで何してたの?」
綴「あ……、えーと、実はかくかくしかじかで……」
困り顔で火事で家をなくしたことを話す綴。
綺世「……そういうことなら、ウチくる?」
綴「えっ!?」
綺世「ウチすぐ近くだけど」
○タワーマンション・綺世の家
タワーマンションの最上階。窓が大きく広々とした部屋。物はほとんどない。
綺世「適当にくつろいで」
綴「!? !?」※びっくり顔
綴(思わず泊めてください! って言って来ちゃったけど、あやくんこんなすごいとこ住んでるの!?)
驚きすぎて固まっている綴。
綺世「……つづちゃん?」
綴「ハッ! いやあの、勢いでお邪魔しちゃったけど、お母さんは……?」
綺世「いないよ。今俺一人暮らしだから」
綴「ひっ、一人暮らし!?」
綺世「実は母さん、再婚したんだよね。今二歳の双子がいるんだけど、まーやんちゃでさ」
綺世の双子の弟のカット。二人とも顔そっくり。
綺世「勉強に集中できなくなるし高校から一人暮らし始めた」
綴「そ、そうだったんだ……」
綺世「俺と二人きりは嫌だった?」
綴「あ、そういう意味じゃないよ! 久々にお母さんにも挨拶したいなと思ってただけで」
綴(あやくんのお母さんにはすごくお世話になったからなぁ)
綴「昔は一緒に寝てたよね!」
綺世「……子どもの頃の話でしょ」
ふいっと不機嫌そうに顔を背ける綺世。
綴(? あやくん……?)
○数分後・リビング
風呂から上がった綴。綺世から借りたスウェットを着ている。
綴「あやくん、お風呂ありがとー!」
綺世「!」
タオルを綴の頭に被せる綺世。そのままわしゃわしゃと頭を拭く。
綺世「ちゃんと拭かないと風邪引くよ」
綴「えへへ」
綺世「何笑ってるの?」
綴「昔は私が拭いてあげてたなぁって!」
綺世「そういえばそうだね」
綴「あやくんおっきくなったんだねぇ」
綺世「……」
ニコニコしている綴とムッとしている綺世。
綺世「ところで、これからどうするの?」
綴「え? そ、そうだね……」
綴(今晩は泊めてもらえることになったけど、ずっと居座るわけにもいかないし)
綺世「このままここにいたら?」
綴「えっ、でも……!」
綺世「俺のお世話してよ」
綴(お、お世話!?)
綺世「一人暮らし始めたはいいけど、料理とかまだ不慣れでさ」
綴「!! そういうことなら任せて! 家政婦さん雇えなくなってから料理始めたから!」
胸を張って瞳を輝かせる綴。
綺世「ほんと? あともう一個お願いがあるんだけど」
綴「うん、何!?」
綺世「毎日キスして」
綴「!?」