容赦なく照りつけるものがなければ、ぼんやりと黄昏れる余裕もあるのだが、いかんせん暑すぎる。制服のズボンの裾を捲った青年は、少女に倣って足をぬるま湯に突っ込んだ。
「ぬる」
「言ったじゃん」
「はー、なにしてんだ俺」
プリントだけ渡して帰ればよかったと青年は思うが、どれだけ時を戻しても、けっきょく少女の隣に座る運命だろう。わかっているからこそ、もどかしくてたまらない。
少女は、クラスで浮いている存在だ。
高校に入学してからずっと、友人のひとりもいない。1年のときから同じクラスの青年はそれをよく知っている。少女は頭脳は明晰なのに、どこかへんてこだった。
はぶられてるわけでも、嫌われてるわけでもない。掴みどころがないマイペースな少女を、皆が遠くからみているだけの話だ。少女自身も、寂しがってはいない。ひとりならひとりで、それでいい。そんな人。
反対に、青年は誰とでも仲良くできる社交的なタイプ。クラスでも中心にいて、別のクラスにも友人がいる。先輩にも後輩にも好かれ、どこにいても大抵うまくやれる。潤滑油のよう。
少女と青年は、交わらない、はずだった。
「アイス買ってきて」
「ぱしんな、自分で買え」
水色のプールの中で、青色の光が散乱する。
隣を盗み見た青年は、表情筋がほとんど使われない少女の微細な変化を見逃さぬように目を凝らした。わかりづらいが、少女は楽しいとき、ほんの僅かに口角を上げる。
視線を向けられてることに気づいてる少女は、敢えて口元をきつく横に結び、自分にだけ面倒見がよくなる青年を弄んだ。
「俺、世話焼くタイプじゃねぇの知ってる?」
「そうなんだ」
「……はぁ〜。マジでさ、おまえだけだよ。俺を振り回せんの」
「光栄だね」
「だからもっと労わってくんね」
「むり」
少女の即答に、青年はからりと笑った。
無防備な背中を押せば、少女は体勢を崩してプールに落ちていくだろう。そのときも、きっと真顔だ。悪戯をした青年を仕返しに道連れにする、なんて少女漫画みたいな展開は、自分の知ってる少女は絶対しないので起こらない。おそらく、全身ずぶ濡れのまま、のんびりすいすい泳ぎ始める。



