幼なじみは、私だけに甘い番犬

(玄希視点)

「玄希、見てっ!ヤドカリ見つけた!!」
「おっ、ホントだ」
「てくてく歩いてるの、可愛いね~」
「可愛いか?」
「可愛いよ~~」

 岩場の一角で見つけたヤドカリをしゃがみ込んで見つめている椰子。

「カタツムリでもありんこでも、お前、『かわいい』って言ってたじゃん」
「そうだっけ?」
「そーだよ」

 幼い頃、公園に遊びに行っても、年の近い子たちと一緒に遊ぶのが怖くて、いつも公園の端っこで虫や草花を探してたじゃん。
 そんな椰子を俺はずっと見守って来たんだからな。

 あの頃からずっと、俺はお前しか見てなくて。
 ずーっと傍でお前が笑顔でいられるように見守って来た。

「なぁ」
「……ん?」

 ヤドカリを棒でツンツンと突いている椰子の隣りに腰を下ろして、声をかける。
 すると、ヤドカリに落としていた視線が俺へと向けられ、『ん?』と小首を傾げた。

 毎日一緒にいるのに、俺、相当我慢してるんだよ。
 お前が、あんまりにも恋愛に疎いから。
 だけど、夏休みに海に来てまで、『待て』は無理じゃね?
 俺、そんな育ちのいい番犬じゃねーんだわ。

 椰子の後ろ首をがっちりとホールドして、顔を傾けて近づく。
 すると、俺の行動の意味を察知した椰子が、ぎゅっと目を瞑った。

 やばっ、何この顔。
 めちゃくちゃ可愛すぎんだろっ。

 完全に俺からのキスを待ってんじゃん。
 こんな激ヤバな椰子、誰にも見せたくねぇ。

「……ん?」

 幾ら待ってもキスされないから、薄っすらと目を開けた椰子と視線が交わる。

「何、期待してんだよ」
「っっっ」

 いつもお預け喰らってる身にもなってみろ。
 たまには、お前にも『待て』させてやる。