幼なじみは、私だけに甘い番犬


 女子更衣室の入口にある衝立の端から、ひょっこり顔を出している人物が一人。

「いい加減出て来ないと、俺がそっちに行くぞ」
「えっ?!」

 客があまりいない海水浴場だから、俺の声が当たり前のように通る。
 ってか、今海の家の中にいるの、俺と椰子だけ。

 渋々姿を現した椰子は、フード付きのラッシュガードのファスナーをきっちり閉めていて、下はキュロットタイプのものを穿いている。
 完全防備の姿に、少し残念感を抱きながらも安堵した。

「で、どーすんの?」
「え?」
「お前、泳げないじゃん」
「うっ……」
「暑い中、ビーチでボーっとするくらいなら、ここで涼んどくか?」
「……」

 浮き輪を使っても溺れるような奴だからな。
 まぁそれでも、海まで来てずっと涼んでるのもどうかと思うが。

「ほら、行くぞ」

 無理やり腕を掴んで、椰子を海の家から連れ出す。

「麦わら帽子持ってくればよかった」
「上着についてるフード被っとけ」
「今ですら暑いのに、更に暑くなるじゃん」
「仕方ねーだろ」
「日に当たると、赤くなるだけで焼けないんだもん」
「知ってるよ」

 何年一緒にいると思ってんだよ。