幼なじみは、私だけに甘い番犬


 椰子の教室、予鈴が鳴り、お昼休みが終わろうとしている。
 そこに椰子が物凄い剣幕で駆け込んで来た。

「奥村さんっ、米川さんっ!!」

 普段は大人しい部類の椰子。
 目立つことが苦手で、いつも琴乃と龍斗の背に隠れているようなタイプだけれど。
 この時ばかりは黙っていられなかった。

 窓際の自席に座っている奥村に駆け寄り、椰子は机をバンッと叩いた。

「私、言ったよね?!玄希はグレープフルーツが食べられないって!」
「は?……何、いきなり」
「好き嫌いの問題じゃなくて、食べれないって話したじゃない!!」
「だから?……何がいいたいの?」

 責められることはしていないという認識の奥村。
 憤慨する椰子を睨み返している。

「玄希は難病患って手術してんの!だから免疫抑制剤を服用してて、グレープフルーツは禁忌物なんだからっ!」
「ッ?!……そ、そんなこと……知らないわよっ」
「私はちゃんと伝えたじゃない!『食べられない!!』って!それを自分の欲を満たそうと、聞く耳持たなかったのは奥村さんでしょ?!玄希の身に何かあったら、ただじゃおかないんだからっ!!」
「椰子……椰子、落ち着いて……ね?」
「椰子ちゃん、ここ、教室だからさ」
「ぅっ……う゛っっ……」

 クラスメイトだけでなく、隣りのクラスの子たちまで廊下に集まり出していた。
 椰子の瞳からは次から次へと大粒の涙が溢れて来る。
 気まずそうにひそひそ話をする奥村と米川。
 取り乱す椰子を落ち着かせようと、背中をさする琴乃。

 教室内は未だかつてないほどに騒然と化していた。