玄希から、『町田にだけ、病気のことを話してあるから』と前に聞いていたこともあって、直接話したことはなくても町田くんに対して多少の安心感はある。
今の質問から察するに、玄希の身に何かが起こったに違いないのは明白だ。
「町田くん、玄希は今、保健室にいるんですか?」
「いや、玄希が裏門にタクシー呼んで、それで病院に向かったと思う。俺は『タクシーに放り込んでくれ』と頼まれただけで、何が起きてるのかさっぱり分からなかったから」
「ごめんっ、話が見えないんだけど……。何でグレープフルーツを摂取したの?本人は分かってるから、絶対に食べたりしないと思うんだけど」
「それが……」
両手で顔を覆った彼は大きな溜息を吐き、『止めればよかった』と呟いてから、事の経緯を話してくれた。
私のクラスの奥村さんと米川さんが、明日の球技大会の準備にと、龍くんが他の子のヘアセットをしている間に『ヘアセットをし合おうよ』と私に声掛けし、『わざとヘアアイロンで髪をチリチリにしてやる』と話しているのを聞いた玄希が、『お前らの望みを叶えてやるから椰子に手出しすんな』と交換条件を出したらしい。
それが、『目の前でグレープフルーツのジュースを飲む』というものだったらしく、玄希は自販機で買った100%のグレープフルーツジュース(500ml)を2本飲んだとのこと。
自販機で購入する時に既にタクシーの迎車手続きをアプリで済ませてたらしく、完飲後にタクシーに乗り込んだという流れ。
椰子は後悔の念で押し潰されそうな町田くんに『ありがとう。きっと大丈夫だよ』と心にもないことを呟いて、自分の教室へとダッシュした。



