味の問題じゃないんだけれど。
どこから話していいのかすら分からない椰子は、心を鬼にして玄希の前に立ちはだかった。
「好き嫌いの問題じゃなくて、食べれないって言ってるんだってば。無理やり押し付けることで奥村さんの気は済むかもしれないけれど、玄希の気持ちにもなってよ」
「っっ……、何よ、いつも何も言わないのに、こんな時ばっかり彼女ぶって」
「聞き捨てならねーな、今のは」
「もういいわよっ!行こ」
一緒にいたクラスメイトの米川さんに目配せして、奥村さんは教室へと入って行った。
「今日は珍しく彼女アピールできたじゃん」
「なっ……」
「ありがとな」
「べ、別に……」
ポンと頭の上に玄希の手が乗せられ、優しく髪が撫でられる。
いつもは玄希が私の周りをうろついているだけで、私から玄希に近寄ったりしなかったけれど。
今回みたいなことがあるなら、日頃からちゃんと彼女らしくしておけばよかったかもしれない、そう椰子は反省した。
「長谷川~、次、視聴覚室だって!早くしないと遅刻すんぞ」
「お~、今行く。椰子、ごめん、移動しないと」
「うん。じゃあ、またあとでね」
玄希は去り際に椰子の手をキュッと掴んだ。
それが殊の外新鮮で。
普段あまりスキンシップを取らない玄希だから、ちょっと驚いてしまった。
そんな様子を奥村たちが見ているとは知らず……。



