幼なじみは、私だけに甘い番犬

(椰子視点)

 2限目の体育授業で球技大会の練習をした玄希のクラス。
 更衣室で着替え終わった生徒が次々と教室へと戻って来ている。
 
「長谷川くん、これあげる」
「ん?……あ~悪い、それ系、苦手」
「えぇ~何で~?味濃くないし、口の中さっぱりするよ?」
「だけど、ごめん」
「別に袋ごとあげるって言ってるわけじゃないんだから、1個くらい貰ってくれてもいいじゃない」

 体育の授業から戻って来た玄希が椰子のクラスの横を通り過ぎようとしているのを、椰子のクラスの女子が玄希に声をかけた。
 その手元を見た椰子が、思わず玄希の元へとダッシュした。

「ごめんね、奥村さん!玄希、グレープフルーツが食べられないの」
「え?」

 熱中症対策の塩タブレット。
 6月に入って急に気温が高くなり出して来たから、熱中症対策は必須だ。
 お手軽で持ち運びも便利な代物だけれど、レモン味やグレープフルーツ味が一般的。
 生のグレープフルーツではないし、果汁なんて微々たるものかもしれないけれど。
 玄希が禁忌のものを徹底した排除生活を送っているのを知っているから、椰子も過敏に反応してしまった。

「別に、貰うくらいいいじゃない。食べたって、味なんて殆どしないのに」