幼なじみは、私だけに甘い番犬


 教室へ戻ろうと、トイレから廊下へ出ようとした俺に、トイレ横の階段の所にいる2人組の会話が漏れ聞こえて来た。

「倉木さん、あんなにイケメンの彼氏がいるのに、寺田くんに好かれようとしてんの見え見えだよね。ホント、顔が可愛けりゃ、何でも許されると思ってんじゃない?」
「昨日の自習の時、見た?寺田くんにツインテールして貰って、超ぶりっ子してたの~」
「見たみた」
「あれ絶対、わざとだよね~」
「超かわいく仕上げて貰ったのは、寺田くんの腕がいいからで、ヘアアイロンなしであんなくるんと、結ぶだけでなるわけないじゃんね~」
「あたしも可愛くセットして貰いたーい」
「あたしも~~」

 前々から陰口のように椰子ちゃんの天パのことを言う子がいるのは知っていた。
 それで椰子ちゃんがトラウマみたいにコンプレックス抱えてるのも知っている。
 だから、俺は俺なりに。
 親から教わった技術で、好きな子を可愛く変身させてるだけで、それを他人にとやかく言われる謂れはないんだけれど。

 俺が特定の子にだけするのが気に入らないなら、対処法は簡単だ。

「希望に添えれるかは分かんないけど、2人もセットしてあげようか?」
「ッ?!!て、寺田くんっ、いたの?」
「俺、男だし。俺より、みんなの方が上手だと思うけど?」
「そんなことないよ!編み込みとかも上手だし、……お願いしてもいい?」
「あたしも!」
「いいよ~。いきなり当日に本番じゃ、ちょっと不安だから、時間ある時に髪触らせてね。髪質とか毛量とかその子の癖とか分かると、セットしやすいからさ」
「うん!」
「ありがとぉ~」

 椰子ちゃんを守るためなら、お安い御用だよ。