幼なじみは、私だけに甘い番犬


「苗字なんだからしょーがねーだろ」
「みょ……字?」
「あぁ、美咲 舞加(まいか)って名前だから」
「……」
「何、俺がお前以外を名前で呼んでるって嫉妬してたんかよ」
「っ……」
「かわいっ」
「っっっ」
「お邪魔しました!!邪魔者は消えてやるわよっ」
「あー、そーしてくれ、マジで」

 身なりを整えた美咲さんが居場所なさげに部屋を出て行こうとする。
 ドアの手前でくるっと体の向きを変え、私の手元を指差した。

「玄くんの前でそれを飲むのは止めた方がいいよ。彼女なら、それくらい知ってなさいよっ」

 バタンと勢いよく部屋を後にした美咲さん。
 椰子の手には、自分が飲む予定のグレープフルーツ100%のジュースが握られている。

 そっか、そうだよね。
 肝移植をした人は、グレープフルーツがNGだった。
 玄希にはお茶のペットボトルを渡せばいいと安易に考えていたけれど、目の前で飲まれたらいい気しないよね。

「ごめんね、深く考えてなかった」
「いや、むしろ飲んでくれていいから」
「え?」
「椰子が好きなものを食べたり飲んだりしてくれる方が、俺は嬉しい」
「……」
「別に、グレープフルーツがすっげぇ好きってわけじゃねーし、飲んだり食べたりしなくても生きていけるよ」
「……うん」
「ただ」
「……ただ?」
「これだと、口移ししてやれないから」
「っっっ」

 ニヤリと口角を上げた玄希は、満足そうにおでこにキスを落とした。