自分たちの女子部屋と同じ間取りで、ダブルベッドが二つ並んでいて、その片方に玄希と美咲さんの姿があった。
「あっ、ごめんね、お取込み中のところ。拓兄に頼まれてお茶を届けに来たんだけど……ここに置いておくね」
「椰子っ!!そこから一歩も動くな!……いいな?」
凄みのある声音に一瞬怯んでしまった。
長年の条件反射とも言うべきか、金縛りのように足が床に張り付いてしまう。
旅館じゃないから浴衣は常備されてなくて、自前の部屋着で過ごしているんだけれど。
美咲さんはパジャマっぽいシャツタイプの部屋着を着ていて、その前ボタンが全部外され、ブラジャー姿が露わになった状態でベッドに横たわっている玄希に馬乗りになっている。
何となく気付いていた。
同じ大学病院で知り合ったというだけでも、もしや?と思ったくらいだし。
お風呂の時のあの腹部の傷を見たら、私なんかじゃ分かり合えない絆があるんだろうな?くらいには。
強引に仕立て上げられた『彼女』だったはずなのに、何でだろう?
こんなに胸が痛いのは。
玄希が病気の時にそばにいてあげられなかったことも。
何も知らずにのうのうと生活していたことも。
過ぎ去ってしまっている過去を今さらどうしようもないのに、それが物凄く苦しくて。
踵を返して私が部屋を出て行こうとした、その時。



