幼なじみは、私だけに甘い番犬


 目的地である、鴨川の保養所に到着。
 海を見渡す高台に位置していて、オーシャンビューのロケーションだ。
 ファミリー層向けの保養所らしく、10人ほどが泊まれるコテージが何棟か立ち並んでいる。

「椰子ちゃん、あの子、誰なの?」
「……知らない。『美咲』って名前らしい。玄希の元カノかも」
「えぇぇっ?!」

 玄希の父親が運転する車とは別で、拓兄の車がついて来ていて、助手席には彼女の千穂(ちほ)さん(大学3年・拓兄と同じ大学)が乗っていたのだ。
 玄希にべったりの美咲を見て、千穂さんはかなり引いている。
 3年ぶりに帰って来た幼なじみと付き合い始めたと拓兄から聞いているのもあって、この旅行の数日前に一緒に服や小物類を買いにいったくらい椰子とは仲がいい。
 
「うかうかしてっと、玄希、取られんぞ」
「っ……、別にどうでもいいもん」

 車から荷物を下ろした拓兄が、椰子と千穂の横に来て、ぼそっと呟いた。
 拓兄と千穂さんは高校時代から付き合っていて、今年で5年目。
 このまま大学を卒業したら、結婚するんじゃないかと思うくらいラブラブで、両家の両親もすっかりその気だ。

「私の可愛い椰子ちゃんを苛める子がどんな子か、ちょっと探って来るね!」
「えっ?!いや、千穂さんっ!」
「……今何言っても、あいつの耳に届いちゃいねーよ」
「だよね」

 思い立ったら即行動の千穂さん。
 優柔不断の拓兄にはデキすぎる彼女さんだ。
 千穂さんは笑顔で玄希に張り付く美咲さんとの間に割り込んでいった。