幼なじみは、私だけに甘い番犬

(椰子視点)

 5月上旬、ゴールデンウイークの連休、朝9時前。
 椰子と玄希の家族は、一泊二日で旅行に行くことになっていて、玄希の父親が車(玄希の父親の車)に積み込んだ荷物に漏れがないかチェックしている。
 椰子と玄希が、マンションのエントランスから出て来た、その時。

「玄くんっ!」
「……美咲(みさき)?」

 可愛らしい弾んだ声が聞こえてきて、椰子は声のする方へと視線を向けた。
 すると、そこにはスタイルのいい女の子がいて、トレンチコートの裾を揺らしながら、キャリーケースを手にして駆け寄って来た。

「会いたかったぁ~」

 『美咲』と呼ばれた女の子は、玄希の隣りにいる私に目もくれず、勢いそのままに玄希に抱きついた。

「おいっ、いきなり何なんだよ」
「いつでも遊びに来いって、玄くんがゆーたやん」
「……」

 私の視線に気づいたのか、急に猫撫で声になり、わざとらしく上目遣いでご機嫌伺いを始めた。
 そんな二人を目の当たりにして、何とも言えない心境に陥る。

 玄希にこんな可愛い女の子の知り合いがいたことすら知らない私は、二人の親密さにちょっとモヤっとしてしまった。

「あれは、こういう意味で言ったんじゃなくて……その、何だ……」

 私の存在が邪魔なのか、言葉を濁す玄希にイラっとした。

「先に行ってる」
「あ……」

 動揺する玄希をその場に残し、私は駐車場へと。