幼なじみは、私だけに甘い番犬


 俺の部屋に入るや否や、椰子の鞄が床にドサッと落ちた。
 そして、くるりと体の向きを変え、黒々とした大きな瞳が俺の瞳を射貫いて来る。

「龍くんに、何であんなこと言ったの?」
「……」
「顔に付いてた汚れを落としてくれてただけじゃない」
「……分かってるよ」
「分かってて、何であんな失礼な態度取ったのよ」
「お前なぁ……」
「何?……言いたいことがあるなら、言ってよ」
「……」

 俺へと真っすぐ向けられている瞳に、みるみるうちに涙が溜まってゆく。
 そして、ふらふらっと俺の目の前まで歩み寄った椰子は、そのままトンッと俺の胸におでこを預けた。

「もう……気持ちを後回しにするの、止めようよ」
「っ……」
「言いたいことも、言わなくちゃいけないことも見てみぬふりして、またすれ違うの嫌だよっ」
「っっ……」

 俺のブレザーをぎゅっと掴んで、椰子の涙が床にぽたぽたと落ちる。

「泣き虫」
「ぅっ……、泣かせたのは誰よっ」
「ごめんごめん」

 俺の胸に顔を埋める椰子の頭を優しく撫でる。

「意地悪する時は饒舌の癖に、肝心のことをいつも言わないんだからっ」

 椰子の言う通りかもしれない。
 照れと恥ずかしさと、不器用な性格が災いとなって、いつも本音を言いそびれてしまうから。

「俺以外の男に、気安く触らせんな。例え、龍斗でも」
「……フフッ、嫉妬……してくれたんだ?」
「当たり前だろ」

 顔を持ち上げた椰子に照れてる顔が見られないように、ぎゅっと抱き締めた。