「帰宅途中で見知らぬ男に連れ去られて軟禁されて、行方不明に。あとは、道を聞かれて親切に教えてたら車に連れ込まれて、AV撮影場所に連れ込まれたとか。……ドラマの世界の話だから、それ」
「ゼロじゃないだろ。あいつめっちゃ可愛いし、変な気起こす男がそこら辺にウヨウヨいるよ」
「ホント、ブレないね~」
「うるせぇ」
「まぁ、安心してよ。琴乃ちゃんが一緒に帰れない時は俺がいつも一緒に帰ってたし、お昼ご飯も一緒に食べたりしてるから、俺らの仲に入って来る奴はいなかったよ」
「そっか」
龍斗は涼しい顔をしながらお弁当を食べ終えた。
龍斗は椰子が幼い頃に何度か誘拐されそうになったのを知らないから呑気にしてられるんだ。
俺はあの時の椰子をそばで見守って来たから。
「玄希が戻って来て、空白の3年間のことも打ち明けたわけだから、もう見守り役を下りてもいいんだよな?」
「え?あ、……うん。ありがとな。あとで何か奢るよ」
「いや、いい」
「あ?」
「お礼言われるほどのことをしたわけじゃねーし、俺がしたくてしたことだから」
「……え?」
龍斗はお弁当箱をランチバッグに入れ、空になったペットボトルの容器を手にして立ち上がった、その時。
キーンコーンカーンコーンと予鈴が鳴った。
「じゃあ、先に戻るな」
「おいっ、龍斗!……今の、どういう意味?」
「言葉のまんまだけど」
龍斗は振り返ることなく教室へと戻って行った。
玄希は龍斗の言った意味を、脳内で何度も何度も考えていた。



