幼なじみは、私だけに甘い番犬


 最寄り駅に到着した椰子を見た琴乃が、恐ろしいほどの形相で駆け寄って来た。

「ちょっと、長谷川っ!あんた、またやらかしたの?!」
「……」
「あ、あのね、琴ちゃん。これには理由(わけ)があって」
「理由?そんなもんはどうでもいいのよっ!あたしの大事な椰子が、こんな泣き腫らした顔であたしの前に来た時点で即アウトだから!」
「っ……」
「言い訳するつもりはない」
「当たり前でしょっ!あんたがしでかしたことを、今更無かったことにはできないんだからっ」
「やめてっ、琴ちゃん!」

 事情を知らない琴乃は、3年前の出来事もひっくるめて玄希に物申したくて仕方ないのだ。
 しれっと何食わぬ顔で出戻って、何事もなかったように3人の輪の中に入った玄希が許せないのだ。

 3年前に忽然と姿を消した直後。
 椰子がどれほど心を痛めて、泣き腫らす毎日だったのか。
 目の前の男(玄希)に抗議せずにはいられない。

「違うの、琴ちゃん。玄希にはちゃんと理由があって、私も昨日ちゃんと納得したし、もう大丈夫だから」
「えっ……」
「だからね、あとで詳しいこと話すから、それまで待ってて」
「……」

 通勤通学の人でごった返す改札口前で口論している場合ではない。
 通りすがる人々の視線が椰子たちに向けられていて、喧嘩をしていると思われている。
 そんな視線から隠すように、玄希は椰子を自分の背後へと匿った。