幼なじみは、私だけに甘い番犬

(玄希視点)
 
 4月下旬のとある日の夕方。
 3年前に通っていた大学病院に転院し、今月から再び通院することになっている俺は定期検診を終え、母親と共に帰宅した。

「あれ?……椰子ちゃん、来てるみたいね」

 玄関に女物の靴が置かれていて、椰子が来ているのが分かった。
 家の中に入ってみたものの、椰子の姿は無い。

「玄希の部屋じゃない?」
「……そうかも」
「お母さん、ちょっと買い物して来るから」
「分かった」
「椰子ちゃんに変な気、起こすんじゃないわよ?」
「あーはいはい」

 母親を軽くあしらって、自室へと向かう。
 自室のドアを開けると、待ちくたびれたのか、椰子は俺のベッドの上で寝ていた。

 気持ちよさそうに寝息を立てているものの、長い睫毛が濡れていることに気付く。
 泣いたのか?

 椰子は小さい頃から泣き虫で。
 ほのぼのとしたアニメでも、必ずと言っていいほど涙していた。

 怖いことに関してだけならまだしも、感動しても泣くし、嬉しくても泣くし。
 毎日のように泣いているあいつを一番そばで見守って来た。

 ふわっふわの柔らかい髪。
 もっちもちの色白の肌。
 
 そっと触れて幸せを噛みしめる。
 
「椰子、……好きだよ」
「……触りたくなるほど、好き……なんだ?」
「ッ?!」