幼なじみは、私だけに甘い番犬

(椰子視点)

 4月下旬のとある日の放課後。
 帰り支度を済ませ、日直の椰子は日誌を職員室へと届けて、教室へと戻る。

 すると、隣りの3組の教室から『長谷川くん、大阪の高校だったんだって』という声が漏れて来た。
 椰子は思わず足を止めた。

 だって、幼なじみの自分が知らない、玄希の過去の話だから。
 いなくなった直後は、毎日のように泣いて、両親に居場所を教えてと何度も頼み込んだし、預かっている合鍵で毎日帰って来てないかチェックしたくらいだ。

 1ヶ月が経ち、2ヶ月が経ち……。
 電話もメールも郵便受けにも連絡が来ない日々が続いて、心が折れた状態の私は、玄希の事を考えること自体を諦めた。
 それくらいしないと、勉強も手につかなかったし、体調も崩しがちで限界だったから。

『普通の高校って言ってたけど、絶対進学校だよね〜。昨日の小テストも満点だったし』

 昔から勉強も運動も出来る人だったから、進学校に通っていても不思議じゃないけれど。
 その話題を何故、知らない人から聞かされているんだろう?
 いや、これは盗み聞きだから聞いたうちに入らないのかもしれないが。
 そもそも、何で生まれた時から一緒にいる私が知らないの?

 龍くんとはメールしてたくせに、何で私のメールは無視すんのよ。
 椰子は無性に腹が立っていた。