幼なじみは、私だけに甘い番犬


 今でもあの日のことを鮮明に憶えている。
 オペナースとして沢山の手術を経験して来ている母親は、大抵の事では動じない。
 そんな母親が、俺には悟られないように笑顔を貼り付けている事もすぐに分かった。

「玄希、血液検査の数値が少し悪いみたいで、CTと MRIを撮ることになったの」
「あっそ。検査室、どこにあんの?」
「今、連れてく」

 昨日より更に浮腫が酷くなった下肢は、少し痛みがあるくらいにまでなっていて、昨日は無かった腹部の痛みもあるから、しっかり検査して貰った方がいいと思った。

 全身のCTとMRIを撮り、検査技師さんの勧めで車椅子を借りる事にした母親は、俺を車椅子に乗せて元の外来診察室前に戻る。
 程なくして名前が呼ばれた。

 ナース服のままの母親と共に診察室に入る。
 医師は検査結果が分かるようにパソコンの画面に画像を映し出した。

 血液の流れだとか、血管や臓器の状態を説明されてもさっぱり分からない俺は、真剣な顔で説明を聞いている母親の顔をじっと見据えていた。

「うちでは専門医がいないし、詳しい検査もしないとならないので、紹介状を書きますね」
「宜しくお願いします」

 涙目になっている母親を見て、俺の脚は少し厄介な病気らしい事は分かった。